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ギムザ染色法

遺伝学部

放射線被曝線量の生物学的評価:
ギムザ染色法による安定型染色体異常の検出法

阿波 章夫
目 次
1.
はじめに
2.
染色体標本の作成
3.
分裂期細胞(メタフェース)の選び方
4.
染色体表記法
5.
各群染色体の特徴(核型分析)
6.
正常変異染色体の種類
7.
安定型構造異常−総論
8.
安定型構造異常−各論1.欠失
9.
安定型構造異常−各論2.逆位
10.
安定型構造異常−各論3.相互転座
11.
誤った判定の例
12.
終わりに

第1章.はじめに

血液リンパ球を培養して染色体を観察し、その異常頻度を測定すると各人が受けた放射線量を推定できます。染色体異常の中には、不安定型異常と、安定型異常の2種類があります。

不安定型異常とは、2動原体染色体や環状染色体のことで、観察は容易ですが、細胞分裂に伴って異常を持つ細胞が失われていくという性質があります。従って被曝後何年もの時間を経てしまうと頻度が低くなってしまうという問題があります。他方の安定型異常は、相互転座や逆位染色体のことで、細胞分裂による影響を受けません。従って被曝後長い年数を経ても頻度が低下することはないようです。しかしこの安定型異常は観察が容易でなく、検出感度が低いという欠点がありました。

原爆被爆者の染色体異常頻度に関する調査は1960年代後半に開始されましたが、調査開始時点ですでに不安定型異常はほとんど消滅していました。従って安定型異常を調査するしか方法はありませんでした。当時は普通のギムザ染色しか方法はありませんでしたから、試行錯誤して異常検出のマニュアルを作りました。そして約30年間にわたって調査を行ってきました。

最近になって従来のギムザ染色に代わって染色体着色法(FISH)が利用できるようになりました。この方法は、特定の染色体に色をつけることにより、異なる色の染色体間の転座を客観的に検出できます。200名以上の原爆被爆者について、従来のギムザ法とFISH法の結果を比較してみたところ、従来のギムザ法では転座の約70%を検出していたことが明らかになりました。  (Nakano M et al. Int J Radiat Biol 77:971-7, 2001

この手引書を公表することにした理由は、最近ではFISH技術に余りに多くの眼が向いてしまって、あたかもそれ以外の方法では安定型染色体異常の検出はできないという風潮が強くなったので、異なる考えを示したかった次第です。確かにFISH法には多くの利点がありますが、最大の欠点はコストが高いことと高価な蛍光顕微鏡を必要とする点です。そこで最もコストの低いギムザ染色という方法でも、研究者の姿勢次第ではかなりのレベルの調査が可能であることを示したいと思います。

第2章.染色体標本の作成

ここでは染色体分析のための血液培養法とか、顕微鏡標本作成法などの技術面については触れません。以下の専門書を参考にして下さい。

外村 晶編; 「染色体異常」朝倉書店、1978年
古庄敏行編; 「臨床染色体診断法」金原出版、1996年
Verma RS and Babu A; Human chromosomes. Manual of basic techniques. New York, Pergamonn Press, 1989.