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ギムザ染色法

遺伝学部

第5章.各群染色体の特徴:核型分析


図5.
核型分析(karyotype)の原則は、22対の常染色体を長さの順に、そして性染色体を最後に並べます。長さとcenの位置を基準にして染色体を並べれば、特徴的な7つの染色体群(A〜G)に区別できます。それぞれの群の特徴について以下に述べます。

図5. にヒト染色体パターンの模式図(ideogramまたはidiogram)を、また図6. に写真分析による男性と女性のメタフェースの核型分析(karyotype)の結果を示しました。以下に述べる特徴や定義の理解に役立てて下さい。(註2
先に示した 表2. はISCN(1985)からの引用ですが、もとの表にあった観察の標準誤差の値は省略しました。誤差の範囲は 約5〜10%程度であることを念頭に置いて利用してください。なお、C群染色体の識別がもっとも困難なので、説明は最後にすることにします。

図6.
A群 (染色体1〜3)
いちばん大型の3対の染色体でcenの位置はいずれも中央部にあります。1番と2番の長さはほぼ同じですが、cenの位置が違います。1番はほぼ中央にありますが、2番は短腕が長腕よりも短く、4:6の割合でcenの位置が偏っています。つまり、CIは 約40%ということです。1番には第二次狭窄“h”があるので、2番とは容易に区別ができます。3番は1番と同じくcenの位置が中央部にあり、形も1番に実に似ています(1番=48.6%: 3番=47.3%)が、3番のほうが20%程短いため、慣れるにしたがって識別は容易となります。

問題は 1番の“h”です。相同染色体の両方にhがある人もあれば、どちらか一方だけに見られる人もあります。人によってはhが全く見られない場合もあります。1番のhは常にcenに続く長腕上部にあります。その形を一言で表現すると、長い首に続いて、“なで肩”のように見えます。まるで、丹頂鶴の首から羽のあたりを見ているようです。
図6 左(男性)の右側1番染色体の形を参照してください。ヘテロクロマチンの量が多いと“h”の範囲は長くなります。これは構造的異常とは考えられてはいません。正常変異(normal variant)、あるいは異形染色体(heteromorphic chromosome)と呼ばれる現象です。親のいずれかがこの変異を保有している場合は、メンデルの法則によりその子供の半分に発現します。

B群 (染色体4〜5)
大型の2対の染色体でcenは末端部寄りにあります。B群の特徴は、A群に次いで長く(1番の全長の 約75%程度)、CIは 27〜28です。ということは、全長の4分の1が短腕という訳です。B群の長腕の長さは1番の長腕の長さにほぼ匹敵します。4番と5番は長さ、形ともに非常によく似ているため、通常染色法の標本では両者の識別はできません。したがって、4本を一括してB群として扱います。

C群 (後述)

D群 (染色体13〜15)
中型の染色体3対からなり、全長は3番染色体の短腕に相当します。末端部にcenが存在し(CI=17〜18)、全部の染色体の短腕に“s”が存在します。G群染色体と共通した特徴的な形態のため、他の染色体との区別は容易です。
“s”は標本のでき具合によっては全く見られないこともありますが、ほとんどの場合は観察できます。メタフェースにおいては、D、G群の染色体の“s”の部分が集合して 付随体連合(satellite association)を形成することがあります。これはリボソームRNAの合成と関係があります。
“s”の大きさや形態に関しては“h”と同様に正常変異と考えられる個人差が存在し、メンデルの法則に従って遺伝します。稀には短腕の大部分が欠落している場合もありますが、遺伝性疾患とは関係がありません。

E群 (染色体16〜18)
D群よりやや小型の3対の染色体です。cenは、16番染色体はほぼ中央部(CI=42)に位置しますが、17番(CI=32)、18番(CI=27)は端部寄りに位置し、短腕が明らかに短い傾向にあります。17番と18番は長さも形も非常によく似ていますが、短腕の長さが 17番よりも18番の方が少し短いので、経験を積むと顕微鏡下で識別ができます。16番には1番と同じ場所に顕著な“h”が観察されることがあり、形と長さに個人差が見られます。

F群 (染色体19〜20)
2対の短い染色体。cenがほぼ中央部にあり、19番と20番の識別はできません。一括してF群染色体として扱います。

G群 (染色体21〜22, Y)
最小の2対の常染色体とY染色体から成るので男性では 5本、女性では 4本観察されます。形態的特徴はD群と同じで、cenは末端部にあり、すべての短腕に“s”があり異形染色体としての個人差がみられます。 しかしYには“s”は存在しません。21番の方が22番よりも小さいことが後で判明しましたが、最初に取り決めた核型を採用しています。

Y染色体は 21番や22番よりもやや長めです。長腕の下半分位はヘテロクロマチンでできており、正常変異としての長さの変化が多いのがYの特徴です。通常染色法では、“h”の部分の染色は薄く、その部位の染色分体は離れずにくっついているように見えます。さらに、“s”が存在しないことなどから、他のG群とは容易に識別することができます。

C群 (染色体6〜12, X)
中型の染色体で7対の常染色体とX染色体からなるため、男性では 計15本、女性では 計16本が含まれます。cenの位置は中央寄りかやや末端部寄りです。X染色体はこのグループの中の大きい方に属します。このグループの染色体は、いずれも長さや形が互いに似ているので、それぞれを識別することはかなり困難です。そういう難しさは存在しますが、通常染色法でも指摘できるC群の個々の染色体の客観的な特徴を提供したいと思います。

長さの順に染色体を並べて見ると、C群の特徴の一つはcenの位置にあります。つまり、CI値がわずかではあるが互いに異なっています。理解を助けるために少々誇張して表現してみると、6番: CI=大、7番+X: CI=大、8番: CI=小、9番: CI=やや小、10番: CI=小、11番: CI=大、12番: CI=小、という傾向になります。6番から12番までは、大/大/小/やや小(hあり)/小/大/小、の順になります。並べてみると、cenの位置がデコボコになります。

6番のペアが一番大きく、並べてみると7番よりも大きいことが分かります。しかしメタフェースのままで、このわずかな長さの違いを指摘するまでにはかなりの経験を必要とします。6番短腕の中間部にはしばしば染まりの薄い部位が認められます。

7番とXを区別するのはほぼ不可能です。従って、C群では最大の6番に続く大きめの3本(男性)または4本(女性)のCI=大に当てはまる染色体を7番+Xと定義して並べます。

X染色体に関しては、50歳を過ぎた女性においては細胞によっては2本のXのうちのどちらか一方にcenの“くびれ”構造が認められない場合があります。即ち2本の染色分体が、あたかも染色体断片のように並んで見えます。これは不活性化されているX染色体に由来するもので、老齢の女性に多く観察され、年齢の増加と共にその頻度も上昇する傾向があります。

8番、10番、12番のcenの位置はやや末端寄りという以外には、あまり特徴はありません。特に10番と12番は非常によく似ていますから、識別は困難です。便宜的に最小の対を12番の位置に並べます。

これらの中で、9番のペアの特徴は比較的容易に認識できます。それはこの染色体には1番、16番と同様に二次狭窄“h”が存在し、個人差を示す場合がしばしばあるからです。前にも述べたように、“h”の形態は、鶴の頭をcenとすれば、「首」とそれに続く「羽部」に至る“なで肩”のような構造という表現がピッタリです。こうした異形染色体はかなりの高頻度で特定の家系に観察できます。

9番のペアに見られるもう1つの正常変異は、約100人に1人の割合で発見される逆位(短腕と長腕が入れ替わっている構造異常)です。これはメンデルの法則に従って遺伝するので、両親のいずれかが保因者であれば子供の半分には9番ペアの一方が逆位になっています。しかし逆位があったからといって病気との関連は認められないので正常な変異体のひとつと考えられています。

以上がそれぞれの群における染色体の特徴です。この識別の最善の方法は、AからG群に属する染色体数をそれぞれ正確に把握することなのです。女性なら: A=6、B=4、C=16、D=6、E=6、F=4、G=4であり、男性なら: A=6、B=4、C=15、D=6、E=6、F=6、G=5であることを確認できるように訓練することです。逆に、性別不明の標本を観察した結果、前述後半の染色体数を得たなら、あなたは男性の細胞を観察していたのです。

要約しますとここで大事な点は: 染色体の正常・異常を確認し、決定するには、A群からG群の染色体の数を正確に数え、そして、それぞれの群に余計な染色体がなければ正常なのです。だから、もし、どこかの染色体群の数が多く、別の群で少ないという場合には、異常染色体が必ずどこかに存在すると疑うわけです。

何もこの順番通りに染色体を数える必要はありません。私の場合は、D群、G群、F群、E群(16番と17-18番)、A群、B群の順の観察を行い、最後に丹念にC群について数を数えながら分析を行います。

個々のグループについて数える時に、メタフェースの染色体をスケッチする習慣をつけることを是非薦めます。慣れてくるとさほどの時間はかかりませんし、後日、観察した細胞の証拠にもなります。

図7.
第3章の 図3-B において、部分的にゆがみがあって不適当と思われる細胞を示しました。このメタフェースとそれから作成したカリオタイプを 図7. に示します。
この図からも明らかな通り、メタフェースの右側の染色体はゆがみのために異常に伸長しています。右端の数本の染色体はらせん(螺旋)構造が観察できるほど極端に伸展しています。特に矢印をつけた染色体は相同のパートナーと比べて短腕・長腕共に伸びすぎています。カリオタイプから推定して、この細胞は正常であろうと考えられますが、これを採用するのは危険であり、カリオタイプをする以前の段階で棄却すべきです。
筆者註
註2:

際命名規約では 核型分析(karyotype) と 模式図(ideogramまたはidiogram) をはっきり区別しています。両者は染色体パターンを表現するものとして無差別に用いられていますが、厳密には少し違います。
図6 に示すように、たとえ1個のメタフェースを対象としたものであっても、描写、写真、もしくはイメージ・アナライザーによる染色体の配列・分析の結果から得られたヒト(もしくは特定の生物種)の染色体パターンを示すものを核型分析と呼びます。一方、模式図とは多数のメタフェースの分析と測定の結果を模式化し、ヒト(もしくは特定の生物種)の染色体パターンを図式化したものを指します。