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ギムザ染色法

遺伝学部

第10章.安定型構造異常−各論3.相互転座

転座型異常は原爆被爆者のリンパ球に見られる安定型異常の中でもっとも頻度の高い構造異常で、安定型異常の 約70%を占めています。放射線はランダムにDNAに切断を生じるので、転座の誘発率は染色体の長さにほぼ比例します。

通常法による転座型異常の識別上の難しさは数多くありますが、中でも、2本の染色体の間で交換される染色体片の長さが同じならば、転座として識別することはできません。さらに、C群のように同じような長さで、しかも似たような形態を持つC群染色体の間で生じる転座は実際に起こりうる転座の頻度よりもはるかに低い割合でしか識別されません。残念ながら、これが通常法による異常識別の限界です。


図16.

例を見ることにしましょう。図16. 上ですが、A群、D群、F群、G群およびYには異常がありません。B群は5本、16番が3本とそれぞれ1本ずつ増えている代わりに、C群(男性ですから15本が正常)が2本足りません。

分析の結果(図16. 下)は、C群の1本の長腕が長くなり、B群と非常によく似た形になっていますし、他の1本の長腕が短くなり、長さも形も16番とそっくりです。つまり、C群の2本の染色体の長腕同志の交換(転座)により、一方はB状となり、他方は16番状を示している訳です。かくて、異常のタイプはt(Cq+; Cq-)と決定されました。


図17.

次に図17. について説明します。メタフェースを見るとD群の1本の長腕が長く、2番の1本が見当たらない代わりに、17番の長腕が著しく伸びたような奇妙な染色体があります。解析結果は、図17下に示したように2番短腕とD群の1本の長腕との転座t(2p-; Dq+)であることがわかります。

図16、17から分かることは、逆位や欠失ではただ1本の染色体の異常に由来しますが、転座の場合は最低2本以上の染色体に生じた交換型の異常ですから、いくつかの染色体群の数に変動が生じています。ここに「欠失・逆位」型異常と「転座」型異常を見分けるコツがあります。

ここでは長い染色体に観察される転座を示しています。異常な染色体はメタフェース、カリオタイプ共に矢印で示してあります。図18 から 図20 までの6例のメタフェースはいずれも1番染色体が関与している異常です。
図18.
図18. 左のメタフェースは重なりが多く、また染色体もやや細いので、初心者には異常の判定が難しいかもしれません。
異常はA群に見られます。3番が1本不足し、その代わりに大型のC群染色体が1本余分に存在します。また、1番の一方が長腕、短腕共に長いことが分かります。この染色体をよく見ると、異常の1番の“h”が異様に長い、つまり異形染色体であることがわかります。
これは正常変異の範囲なので、実は短腕が異常に長いのです。余分のC群染色体は3番に属すると考えれば、異常の型は1番短腕と3番短腕の間の転座 t(1p+; 3p-) となります。
図18右では、1番の短腕が短く、かつ長腕のcen付近にかなり大きなhが認められます。E群(16番)の1本は失われ、その代わりにB群が1本余分にあります。転座は当然1番短腕と16番短腕との間に起こったものと判断されます。因みに、この図の2つのメタフェースは同一人物からのものですから、1番のhに関する正常変異が両方の細胞に観察されるのは当然のことです。
図19.
図19. 左は1番とF群からそれぞれ1本染色体が失われ、その代わりに2本の過剰なC群様の染色体が存在します。
したがって、転座t(1q-; Fq+)となります。図19. 右は、1番の短腕が極端に長く、G群染色体が6本(ただし1本はY)となり、C群が1本不足しています。これらを総合すると、G群様の1本は実はC群に由来するもので、転座のために長腕の大部分が1番の短腕に移ったと考えるのが妥当です。
ではG群の内のどれがC群由来の染色体かを推理します。Y(破線の矢印)を除く5本のG群染色体のうち4本は破線で囲ったサークルの中にあります。これらはD群染色体と共に付随体連合(satellite association)を作っているので、本物のG群染色体です。従って残った1本(矢印)がC群染色体に関わる異常染色体と推定されます。
図20.
図20. も1番が関与する転座です。
左は、1番が1本不足し、まるでD群の「お化け」のような染色体が1本あります。通常Y染色体の長腕下部はhが多く、その部分では2本の染色分体はG群染色体よりもくっついているという特徴があります。このお化け染色体の上半分にはYの長腕の特徴がよく現れていますから、1番長腕の多くがYの長腕に転座した、t(1q-; Yq+)という異常が形成されたものと判断されます。

図20. 右の異常にはいろいろな特徴が見られます。まず、1番の短腕が短くなっていること、および、この異常染色体のhはかなり大きいことが分かります。転座のパートナーはC群の1本で、これもhの大きい(恐らく)9番染色体の長腕が長くなっています。したがって、異常はt(1p-; Cq+)となります。
図21.
図21. 左の異常は、A群3番が3本あり、B群染色体が1本余分にあることに基づくものです。
これら2本の正常様の異常染色体がメタフェースの観察だけで識別されたなら、あなたはもう素人の域を脱したと思われます。それから後の異常の判定は簡単で、図にもある通り、t(2q-; Cq+)です。図21. 右は判定がもっとも難しいC群染色体の間の転座です。矢印で示す異常染色体は、一方は小型でcenが染色体の中央に位置し、他方はB群によく似ているが、短腕が小型のもの、の2本からなります。
いろいろな異常を想定できますが、t(Cq-; Cp+)というのが妥当なところです。
図22.
図22. には比較的小型の染色体が関与した転座例を示します。
左図の異常はメタフェースのレベルではなかなか難しいものです。よく観察すると、E群の1本(多分17番)が欠けており、C群が1本余計にあります。小型のC群様の染色体はcenがほぼ中央部にありますから、異常には間違いありません。中型のC群染色体の1本はCIのバランス(短腕が短く、長腕が長い)が悪く、“C群らしくない”ことに注目すべきです。カリオタイプの結果はt(Cp-; 17p+)とするのがもっとも抵抗が少ないと思います。

図22. 右は、F群が2本少なく、16番とも17番ともつかない染色体が1本と、G群よりも小型の染色体が観察されます。カリオタイプからも分かるように、2本のF群染色体の転座t(Fq+; Fq-)です。

最後の例を見ても分かるように、F群やG群のように小さな染色体の異常では、染色体の増減がほんのわずかであってもかなり的確に把握することができます。従って、通常法で安定型異常を識別することは、大型の染色体が関与する異常を見逃す結果となるのは避けられません。