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分子生物科学部

分子生物科学部
2016年に新たに発足した分子生物科学部 (以前の遺伝学部および放射線生物学/分子疫学部) は、(1) 遺伝的影響と (2) 発がん機構に関する基礎科学研究を行います。

遺伝的影響の研究では、被爆者の家族(母、父、子)における遺伝的変異の頻度と性質について、超可変ミニサテライトおよびマイクロサテライト遺伝子座、ならびにゲノム当たり約 1,000−2,500 個の遺伝子座における突然変異を検出する幾つかの調査を実施してきました。いずれの調査においても統計的に有意な親の放射線被ばくによる遺伝的影響は示唆されていません。最近、ゲノム全体における比較的大きな欠失型や増幅型の突然変異の検出のため、100万を超えるプローブを用いた高密度マイクロアレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)法を導入しました。この方法は最初、動物モデルにおける放射線の継世代的影響を推定するために使用され、現在は原爆被爆者の子どもの調査に用いられています。また、変異をゲノム全体の領域に渡って検出することのできる次世代シークエンシング技術を用いた全ゲノム配列決定に基づく遺伝調査も開始しています。さらに、生殖細胞突然変異の定量的測定用に緑色蛍光蛋白質(GFP)マウスモデルを開発しています。

発がん機構の研究は、被爆者における放射線被ばくとがん発生の間の機構的関係を解明することを目標としています。この目標のために、寿命調査(LSS)集団における甲状腺がん、大腸がん、肺がんの発生における早期分子事象を解析しています。また、それら放射線関連がんで見つかる遺伝子変化の発がん性をマウスや培養細胞を用いた実験で調べています。乳がん、甲状腺がん、皮膚がんの遺伝学的要因についての検討も行っています。胎内照射したマウスの甲状腺や造血システムなど、様々な臓器の細胞を用いた細胞遺伝学調査を行い、染色体異常のある胎児幹細胞は負の選択を受けるという仮説を検討しています。

分子生物科学部では、原爆被爆者の放射線被ばくと病気の関係するバイオマーカーを見つけ、調査することにも取り組んでいます。現在調査を行っているバイオマーカーとして、被爆者の免疫機能低下や慢性疾患に関係すると思われる免疫マーカーを取り上げています。また、免疫機能の個人差の遺伝的要因、および遺伝的要因が放射線関連疾患への感受性に及ぼす影響を検討しています。さらに、放射線でできた治らないDNAの傷、メチル化DNA、およびDNA転写も、放射線被ばく後に疾患リスクが高まることにつながるエビジェネティックメカニズムの可能性があると考えて検討を進めています。蛍光 in situ ハイブリダイゼーション(FISH)法を用いて測定する安定型染色体異常(転座)頻度は、物理線量に対して個々の値のバラつきが大きいことが示されましたが、全く別の生物学的線量推定法である歯のエナメル質を用いる電子スピン共鳴(ESR)法の結果に対しては、バラつきが少ないことが示されました。このような生物学的線量推定データにより、DS02 線量推定方式で計算された個人の被ばく線量の確率的および統計的誤差に関する情報が得られ、がんリスク推定に際して重要な情報になると期待しています。
分子遺伝学研究
被爆者の子供における染色体の突然変異を検出するための技術開発と予備調査、また将来の調査に備え、両親と子供から成る 1,000家族(半数の家族では、少なくとも両親のどちらか一方が近距離被爆者)のリンパ球細胞株を作ることに努力を傾注しています。

分子腫瘍学研究
生体内でがんが発生するには幾つものステップがあると考えられています。正常な細胞から悪性腫瘍が生じるには、細胞の幾つかの遺伝子に突然変異や異常が蓄積されて、細胞の生死をしっかりとコントロールしている仕組みに破綻が起こります。電離放射線は遺伝子の突然変異やエピジェネティックな変化(DNA塩基配列は変わらずその発現が変化する)など、DNAに様々な傷害を与えることが知られています。そして、電離放射線の一つである原爆の放射線も、がんの発生に関係する大切な遺伝子の幾つかに傷を付けたり変化を起こしたりしたと思われます。

分子腫瘍学研究では、原爆放射線で傷ついた遺伝子や通常とは異なった振る舞いをしている遺伝子の仕組みを見つけることによって、放射線による発がんにどのような生物学的なメカニズムが働いているのか明らかにしようとしています。具体的には、いろいろな量の放射線に被曝した被爆者の方々の体組織から取り出された試料を、最新の分子生物学のテクニックを用いて調べています。

免疫学研究
免疫は細菌や寄生虫のような異物の侵入から体を守る仕組みです。また、ある種の悪性細胞が生体内で増え続けるのを押さえたり、場合によっては悪性細胞が発生するのを防いだりします(がんに対する免疫学的監視)。しかし、生体の免疫反応、特に炎症反応は、いろいろな生活習慣病の発生の鍵になる機構の一つと考えられています。たとえば、糖尿病や心臓血管疾患、更にはある種のがんもそのような病気の一例です。免疫を担う細胞は、性質や働きが様々に異なる集団で、血液のもとになる細胞(幹細胞と呼ばれる)が細胞分裂を繰り返すことによって造られます。これらの細胞が、お互いに助け合ったり調節し合ったりして、侵入してきた異物をうまく取り除いているのです。
免疫学研究では、放射線によって生じた免疫の変化が、原爆被爆者の病気の発生にどのように関係するか調べています。また、免疫学の方法を使って、被爆者の血液細胞の突然変異を研究してきました。

免疫ゲノム研究
ヒトDNAの完全な遺伝情報一式であるヒトゲノムは個人個人で異なっており、その違いが環境中の化学物質や放射線への感受性の個人差、および生活習慣病の発生にかかわる生物学的素因の個人差の一因となっています。「免疫ゲノム研究」は、放射線関連疾患に対する個別予防法の開発を目標として、放射線や、がん、糖尿病などの生活習慣病への感受性の個人差の原因となる遺伝子多型について調べています。

細胞遺伝学研究
従来行ってきた ギムザ染色法 に替えて最近開発された 蛍光 in situ ハイブリダイゼーション(FISH)法 を用いて被爆者のリンパ球の染色体調査を行っており、染色体異常頻度と推定被曝線量との関係を調べています。また、被爆者から提供を受けた歯(医療のために抜歯されたもの)のエナメル質に電子スピン共鳴(ESR)法を応用して、物理的線量推定を補うための生物学的線量を推定する研究も行っています。

研究員と研究課題

楠 洋一郎(部長)
 放射線被曝と免疫老化
 免疫関連疾患の分子疫学
林 奉権(副部長)
 放射線被曝者における免疫老化
 免疫関連疾患に対する遺伝的感受性
 生体恒常性と細胞間情報伝達
野田 朝男(副部長)
 放射線生物学
 分子遺伝学
内村 有邦(室長)
佐藤 康成
 分子遺伝学
 細胞生物学
 
楠 洋一郎(室長)
多賀 正尊
 原爆被爆者に発生した固形がん
 (肺、大腸、甲状腺)の分子腫瘍学研究
伊藤 玲子
 原爆被爆者のがん組織の分子病理学研究
   
林 奉権(室長)
吉田 健吾
 がんおよびがん以外の疾患に対する
 免疫遺伝学的感受性
 免疫機能に特に注目した老化
梶村 順子
 原爆被爆者における免疫老化と
 その他の放射線被曝後影響の研究
 
野田 朝男(室長)
濱崎 幹也
 細胞遺伝学
 放射線生物学
平井 裕子
 放射線生物学
 分子遺伝学