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分子遺伝学研究室

分子生物科学部
親の放射線被曝が子供に及ぼす影響、すなわち放射線の遺伝的影響に関して、幾つかの大規模な調査が1948年以来行われています。

両親の一方もしくは両方が被爆者である場合、生まれてくる子供の死産率、奇形率、出生直後の死亡率、染色体異常および蛋白質レベルでの突然変異率などが親の被曝線量の増加と共に増えているかどうか、これまで調査が行われてきました。その結果は、いずれにおいても親の放射線被曝の影響は観察されませんでした。子供が成人に達した以降の死亡率については、これまでのところは親の被曝の影響は見られていませんが、継続して疫学調査が行われています。

これらの調査は、当時としては最新の知識と技術に基づいて行われたものでしたが、現在の知識から考えると残念ながら必ずしもすべてが放射線の遺伝的影響を検出するのに適した方法ではありませんでした。

最近になって遺伝子工学の急速な進展により、遺伝子(DNA)を直接調べられる時代になってきました。そこでこの方法を用いて放射線の遺伝的影響を明らかにする計画が進められています。1984年に開かれた遺伝調査会議において、父-母-子を一組とした家族の血液細胞(リンパ球)を永久保存するようにとの勧告がなされました。そして既に約1,000家族について細胞収集が完了し、それらは現在マイナス200度の液体窒素中に凍結保存されています。これらの細胞のDNAを用いて、将来大規模な分子遺伝学調査が行われる予定です。

1991年に開催されたヒト生殖細胞突然変異ワークショップでは、放射線による突然変異を効率よく検査するために最も適したDNA配列と、多くの人について調査を行うのに最も適した方法とを検討する目的で、まず 100家族(親の被曝線量が最も高い50家族と 最も線量が少ない50家族)について試行調査を開始するよう勧告がなされました。

この勧告に従って、マイクロサテライトおよびミニサテライトの遺伝子座(ヒトゲノム中に分散して存在する反復塩基配列のこと。繰り返しの回数が人によっていろいろ異なるが、どれが正常でどれが異常というものではない。自然突然変異率が高い。)の試行調査を行いました。限られた人数の調査ですが、親の放射線被曝の影響は検出されていません。

放射線によって最もよく生じると考えられている突然変異は欠失型の異常です。これは常染色体にある遺伝子の場合、通常は2個ある遺伝子のどちらか一方が部分的に、あるいは遺伝子全体が失われるものです。こうした突然変異を検出する効果的な方法を確立することを計画しました。現在2種類の技法を開発しています。
一つはマイクロアレイを基盤とした comparative genomic hybridization(アレイCGH)法です。アレイCGH法 では、別々の種類の蛍光色素で標識された 検査対象ゲノムDNA と 対照ゲノムDNA とを混ぜた物を、クローンDNA断片をターゲットとして張り付けたアレイに同時にハイブリダイゼーションします。張り付けられたDNA断片上の蛍光強度比は、DNAコピー数の変化をターゲットごとに示しています。この方法は正常2倍体からの単一コピーの減少と増加を検出することができるとともに、1枚のスライドガラス上で多数のDNA断片を調べることも可能です。
もう一つの方法はDNAの断片をラジオアイソトープで標識した後に、二次元電気泳動と呼ばれる操作を行い、オートラジオグラムを作成して得られるX線フィルム上の点(スポット)をコンピュータの手助けにより定量的に画像分析する方法です。この方法の利点は、既知、未知を問わず数千もの遺伝子に関する情報が一度に得られる点です。現在試行調査を行って、これらの手法の有用性を検討しています。