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Comments regarding claims of epilation and other acute radiation effects

2キロ以遠の被爆でも急性放射線症状(脱毛、皮下出血など)があったか? 「機密解除」になった米軍調査団の報告書について


機密解除になったとされている米軍マンハッタン調査団の報告書について、1997年11月24日長崎新聞、11月25日中国新聞において報道がなされました。この報告書の解釈には注意が必要ですので解説をします。

中国新聞報道の内容(1997年11月25日付記事)

見出し「2キロ以遠でも放射線障害―被爆直後米が調査、国の基準再考必至」
原爆の爆心地から2キロ以上離れた地点で被爆した人にも、脱毛など急性放射線障害とみられる症状が現れていたことを示すデータが、投下の1〜2カ月後に長崎、広島入りした米国「マンハッタン調査団」の報告書に記載されていることが24日、分かった。 被ばく線量推定方式(DS86)を根拠に「2キロ以遠では人体への影響はない」としてきた国が判断基準の再考を迫られるのは必至。報告書の翻訳作業に当たっている長崎大学の朝長万左男教授は「遠距離領域でのDS86の信頼性に疑問を投げかけるデータ」と指摘している。 米軍が原爆の影響を調べるため医師や科学者で組織したマンハッタン調査団は1945年9月10日から10月6日まで長崎、10月3日から7日まで広島入り。日本人医師の作成したカルテなどを基に、入院中の被爆者ら計900人を対象に調査した。 報告書は(1)爆心地から2.25〜4.25キロで被爆した男女46人中8人に脱毛が見られた、(2)2.25〜3.35キロで被爆した41人中14人に皮下出血があった、としている。 報告書は2年前に機密解除となり、23日閉幕した核戦争防止国際医師会議(IPPNW)の北アジア地域会議(長崎市)で朝長教授が分析結果を報告した。 同教授は「広島、長崎とも脱毛と皮下出血の両症状を確認しており、2キロ以遠でも放射線障害があった可能性が高い。DS86はよくできた理論方式だが、このデータからも現実とずれがあることが分かる。今後、再検討の必要があるだろう」と話している。

マンハッタン調査団報告書の脱毛や皮下出血の頻度は確かに高い

我々が10年前(昭和62年)に米国公文書館より入手した当時機密解除になったマンハッタン調査団報告書の脱毛等に関する部分の記述(調査人数は少なくて合計644人)によれば、爆心地から2.25〜4.25 kmで被爆した人の中で脱毛が見られた人は46人中8人(17%)、2.25〜3.35 kmで皮下出血がみられた人は41人中14人(34%)となっています。 脱毛や皮下出血に関しては、すでにいくつかの調査結果が公表されています。例えば脱毛についてですが、日米合同調査団の調査(13000人以上)では、爆心地から2.1〜2.5 kmで被爆した人の脱毛は4.8%、2.6〜5 kmでは1.6%です。また、次の図から明らかなように、東京帝国大学調査(4406人)でも、放射線影響研究所で行っている調査(広島、長崎あわせて8万人以上)も、日米合同調査団の調査結果とほとんど同じです。つまり、今回報道されたマンハッタン調査団報告書の結果だけが、1.5 km以遠でずば抜けて高い頻度を示しています。

考えられる食い違いの理由

1)

マンハッタン調査団報告書で調査対象となった被爆者は、新聞記事で述べられているとおり「入院患者」です。熱線や爆風は放射線よりも遠方まで到達したと考えられていますので、放射線障害だけでなく、火傷や外傷などの理由で入院を必要とした人達も含まれていたと考えるのが妥当でしょう。脱毛症状は、放射線被曝以外にも様々な理由で生じることは知られていますから、「入院患者」における脱毛症状が全て放射線に起因するとは考えられません。

2)

調査された患者数は、0.75 km〜1.25 kmでは236人であるのに対して、2.25 km以上ではわずか56人です。しかし実際の被爆者の人数は、被爆地点が遠方になる程多いはずです。つまり、マンハッタン調査団報告書にある2.25 km以遠の被爆者は、多くの遠距離被爆者の中でも入院する必要のあったごく一部の人と考えられます。従って、遠距離被爆者の症状出現頻度を、このように少数の偏りのある可能性が高い患者群より判断することはできません。前述の日米合同調査団調査ではこのような問題を慎重に検討し、調査対象を選定しています。

被ばく線量推定方式(DS86)の見直しが必要か?
今回の新聞報道では、マンハッタン調査団報告書に見られる2 km以遠での脱毛や皮下出血の出現頻度が高いので遠距離でも放射線障害があるかのごとく解釈され、遠距離領域でのDS86の信頼性に疑問が投げかけられています。しかしながら、前述のごとく、今回報道されたマンハッタン調査団報告書における遠距離被爆者の脱毛や皮下出血はより信頼性が高い他の調査報告と比較して著しく頻度が高く出ています。これは調査のバイアスによってもたらされた可能性が高く、実状とかけ離れたものと考えられます。しかし、東京帝国大学、日米合同調査団、放射線影響研究所の調査結果においては、遠距離被爆者に低い頻度で脱毛などの症状が見られていますが、これは放射線以外の理由によるものと考えられています。したがって、今回のマンハッタン調査団報告についての報道がDS86の見直しに直結するものとは考えられません。

(注釈)
1945年9月に米軍は、陸軍マンハッタン管区調査団のみならず米軍太平洋地区総司令部オーターソン調査班, 海軍ワーレン医学調査班, 米空軍戦略爆撃調査団などの調査団を広島長崎に派遣し、調査を行いました。我が国からも東京帝国大学や京都帝国大学, 熊本医科大学などの調査班が調査を行いました。しかしながらこれら調査は多くは小規模なものであったため、その後GHQを背景に本格的な原爆影響調査を実施することになり、米軍太平洋地域総司令部班, マンハッタン管区班, 米国海軍班および日本帝国政府班が合同で調査にあたる『原爆の効果に関する合同調査団』(通称:日米合同調査団)が組成され、大規模な調査が実施されました。