電離(イオン化)

イオンとはプラスとマイナスの電荷が等しくない原子または分子のことを指します。負の電荷は電子、正の電荷は核の中の陽子によってもたらされます。塩化ナトリウム (NaCl)を例にとると、これは水に溶解するとナトリウムと塩素に分かれて2種類のイオン、すなわちNa+とClを形成します。これはナトリウムが電子を1個失い、塩素が電子を1個獲得するために起こります。なぜこのような現象が起こるのでしょうか。それはナトリウム原子は一番外側の電子軌道に電子を1個しか持っていないのですが、それを失うとナトリウム原子はとても安定化するのです。同様に塩素原子は電子の最外軌道に電子を7個持っていますが、電子を1個獲得すればその軌道が8個の電子で満たされてとても安定化します。このように普通のイオン生成には決まった電子のやり取りがかかわっています。

放射線被曝後、放射線エネルギーはそれを吸収する物質の中に放出され、それにより励起(原子中の電子を軌道の高いレベルに押し上げる)または電離(原子から電子を放出させる)が生じます。上に述べた通常のイオン生成とは対照的に、放射線はでたらめにいろいろな電子を原子から失わせるため、遊離基(ラジカル)と呼ばれる極度に不安定なイオンを生成します。遊離基の多くは近隣の原子または分子とほとんど瞬時に反応します(1秒の1,000分の1以下)。

人体の70% は水分子により構成されています。放射線はH2Oを分解し、遺伝情報を持つDNAなど種々の生体分子に対して極めて攻撃性の高いことで知られる遊離基OHを生成します。放射線はまた、直接DNAに作用して遊離基を生成しDNA鎖を切断することもできます。

ガンマ線中性子など放射線の種類によって、電離の空間分布は異なります。ガンマ線照射は細胞内において均一に電離をもたらしますが、中性子照射は一部に集中的に電離を引き起こし、細胞に更に深刻な傷害をもたらすと考えられます。

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