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寿命調査 第8報

TR番号 1-77
寿命調査:第8報 原爆被爆者における死亡率、1950−74年

Moriyama IM, 加藤寛夫
Radiat Res 146:1-27, 1996
編集者注:この報告書に基づく論文は、下記の学術雑誌に掲載されています。
  • Beebe GW, Kato H, Land CE: Studies of the mortality of A-bomb survivors. 6. Mortality and radiation dose, 1950-1974. Radiat Res 75:138-201, 1978
  • Beebe GW, 加藤寛夫, Land CE: 原爆被爆者における死亡率調査。6.死亡率及び放射線量、1950−74年(その1)。広島医学 32:745-61, 1979
  • Beebe GW, 加藤寛夫, Land CE: 原爆被爆者における死亡率調査。6.死亡率及び放射線量、1950−74年(その2)。広島医学 32:842-61, 1979
  • 要 約
    前報では 1950-72年の間における原爆被爆者 82,000人の死亡率調査の報告を行ったが、その後(1974年9月30日まで)1,704件の死亡があり、その結果、1950年10月1日以降の総死亡者数は 20,230人となった。癌による死亡は 390件あり通算して 3,957人であった。1950-74年間の全死亡例に長崎では1958-70年、広島では1957-70年間における腫瘍登録からの情報を追加して、次のような問題に特に注意を払って再解析を行った。 (1)放射線の発癌効果は死亡率の観点からみた場合唯一の重要な後影響であるか。 (2)この発癌効果はすべての組織および病理組織学的型に影響を及ぼす全般的なものであるか。 (3)両市間に生物学的効果比(RBE)を推定できる確実な差異があるか。(4)長崎の資料は特定の癌のガンマ線量反応曲線の関数を精査できるほど量的に十分あるか。(5)1945年の被爆当時の年齢が電離放射線の発癌効果に果たす役割について更に多くの知見が得られるか。

    血液や造血器の疾患(貧血)による死亡は、白血病と混同されている可能性があり、また、貧血の原因となる潜在的な腫瘍が探知されずにいる場合もあるので、その確認は困難であるが、これを除いては癌以外の疾患による死亡は今のところ電離放射線とは無関係である。癌以外の病死因による死亡は 14,405件あったが、それら全体およびその主要死因を解析した結果、癌以外の疾患では放射線の死亡に及ぼす後影響がみられるという証拠はなかった。これらの所見から、電離放射線はすべての疾患による死亡率を高めるものであるとする加齢促進の仮説には疑問が投げかけられた。

    新しく追加された死亡診断書資料の解析の結果、今までにこの調査報告で認められた影響に胃癌、食道癌、泌尿器癌およびリンパ腫も追加すべきであるとの示唆が得られた。このうち、胃癌は日本で最も多く認められる癌であるので、最も大きな関心をひくと思われる。 胃癌への影響は他の器官の癌への影響と同程度であって、日本の胃癌の自然発生率と比較すると小さい。

    この死亡率調査で認められた発癌効果は、一般的に自然発生率に比例するものではない。さらに、食道や胃以外の消化器官にも発癌効果が及んでおり、また、消化器官以外の部位でも影響がみられる。腫瘍登録資料からは、大腸、肝臓、および他の器官にも発癌効果がみられる可能性が指摘された。

    放射線の発癌効果は、死亡例数の少ない長崎よりも広島の方で強く認められる。また、長崎の資料だけでは多くの部位で放射線の影響を証明するには量的に不十分である。さらに、絶体危険率も単位rad当たりの点からみると中性子の寄与が総線量の大きな部分を構成する広島の方が、中性子の総線量への寄与がほとんどない長崎よりも高いことは明らかのようである。

    白血病誘発効果は、1970-74年間の調査でもまだ認められ、とりわけ、原爆時に20-34歳であった人に多くみられる。また、白血病以外の悪性新生物全体の絶対危険度の平均も上昇を続け、1970-74年の調査では、100万人年rad(PYR)当たりの死亡数は 4.2にまで達した。顧みると、現在放射線の影響が明確にあるとされているほとんどの部位の癌では、死亡率の増加が統計的に証明されるまでの最小潜伏期間は癌の種類および原爆時年齢によって変わるようである。これまで認められた放射線の影響のほとんどは少なくとも被爆時に何歳かに達しており、被爆後15年以内に現れている。

    原爆時年齢は、発癌に重要な役割を演ずるが、このことは対象集団の最少年齢者が主な癌の発生する年齢に達するまでは完全には解明できない。一般に全観察期間を通じて平均した絶対危険度は原爆時年齢と共に増加する。しかし、白血病および乳癌は著明な例外であり、また、認められた増加の多くは、ある部位の癌では放射線誘発腫瘍が自然発生腫瘍と同じ年齢分布を示すという事実の反映にすぎないかも知れない。したがって、35歳以下ではまれである肺癌に関して言えば、原爆時 35歳以下(1974年に70歳以下)であった被爆者にはその増加は認められない。これは、若年対象者が影響を受けないのではなく、影響がはっきりと現われる年齢に達していないだけのことであるかもしれない。

    広島の白血病以外の特定な癌については、低線量域の線量反応曲線の形を確信をもって示すことができるほど資料が多くない。この線量域の反応曲線は、電離放射線の危険を最少限にするための公的方針を設定するには非常に重大である。広島の白血病の曲線は直線であると容認できるが、長崎の資料は残念ながら標本誤差の観点から劣っているので白血病の線量反応関数に対する線エネルギー付与(LET)の影響を評価するには大きな価値はない。その他の主な部位の癌については広島の資料はあまり断定的でない。もっと多くの資料がなくては線量反応関数曲線を確定することはできない。

    白血病誘発効果は最近まで死亡率に対する後影響を支配してきたが、現在では白血病以外の癌への放射線影響の方が大きくなってきた。1974年末では、研究対象の 82,000人の被爆者のうち白血病による過剰な死亡者は 85人で、その他の癌では 100人に達した。白血病以外のすべての癌についての絶対危険度の継続的増加に特に関連があると思われる癌の部位は、呼吸器および消化器の癌であった。発生率に関する資料によれば乳癌も増加しつつあるが、これはまだ死亡率の解析にはみられない。

    線量反応曲線が直線的であるとの仮定は、広島の白血病を除いてはどの癌についても証明されていないが、この仮説に基づいて白血病を含むすべての部位の癌の絶対危険度を推定した。これによると 1950年の国勢調査時に確認された 285,000人の原爆被爆者のうち、1950年から1974年の間に 400−500人が放射線誘発性癌で死亡し、その他の死因によって 69,000人が死亡したであろうと推定される。
    編集者注:本報の次の部分は、伝染性疾病頻度、アレルギー、悪性腫瘍、および公衆衛生の観点から興味深い他の多くの症状に関するデータを含む。

    挿入図表一覧

    1. 腫瘍登録および死亡診断書の件数の比較、都市別、1959−70年
    2. 原爆被爆者における特定部位の癌による死亡、1960年原爆被爆者調査および1965年質問票郵送調査
    3. 100rad以上の線量に被曝した人の白血病による観察死亡数および日本全国の死亡率をもとにした期待死亡数、原爆時年齢および暦年別
    4. 胃癌に対する線量反応関係についての腫瘍登録および死亡診断書の資料の比較、都市別
    5. 世帯主の職業別にみた胃癌の観察死亡数および期待死亡数:両市、両性合計、1960−74年
    6. 直腸および直腸S状結腸移行部の悪性新生物、1967−70年
    7. 腫瘍登録資料に基づく乳癌症例数、1959−70年
    8. 白血病を除くリンパ組織および造血組織の悪性新生物による死亡数ならびに剖検および白血病登録の血液学的検査に基づく診断
    9. 腫瘍登録資料に基づく甲状腺癌症例数、T65線量別、1959−70年
    10. 新生物以外の全病死因による死亡数に関する検定確率の総括
    11. 絶対危険度の回帰推定値の総括、両市および年齢合計、1950−74年
    12. 主影響の強さに関する広島・長崎の比較
    1. 年間人口100,000人当たりの白血病死亡数:T65線量および都市別
    2. 原爆時年齢別の白血病誘発効果の測定、1950−74年両市の平均
    3. 1950年10月1日現在の被爆生存者1,000人当たりの白血病累積死亡数、1950−74年、原爆時年齢、T65線量別
    4. 白血病とその他の癌の推定絶対危険度、100万人年rad当たりの経年的過剰死亡者数の回帰推定値
    5. 白血病、全癌および白血病以外の全癌についての相対危険度および絶対危険度の比較、原爆時年齢別
    6. 1950年10月1日現在の被爆生存者1,000人当たりの累積胃癌死亡数、1950−74年、原爆時年齢およびT65線量別、広島
    7. 1950年10月1日現在の被爆生存者1,000人当たりの累積肺癌死亡数、1950−74年、原爆時年齢およびT65線量別
    8. 年間10,000人当たりの新生物以外の全病死因による死亡数、原爆時年齢別、1950−74年、100rad以上対0−9radの被曝線量群の比較
    9. 主な放射線発癌における線量反応曲線、0−9radの群を基準とした相対危険度、都市別、1950−74年
    10. 期間別特定死因別死亡率(人口10万対)、1950−74年、100rad以上群対0−9rad群
    11. 白血病を除く全癌の経年的推定絶対危険度、都市別、90%信頼区間
    12. 主な放射線発癌における推定絶対危険度、原爆時年齢別、1950−74年
    13. 白血病における線量反応、寿命調査対象者の死亡診断書および白血病登録に基づく推定、都市別
    14. 白血病を除く全癌における線量反応、都市別
    15. 胃癌における線量反応、都市別
    16. 肺癌における線量反応、都市別
    17. 乳癌における線量反応、都市別