Menu does not appear
-- SiteMap

寿命調査 第6報

TR番号 10-71
予研−ABCC寿命調査:第6報 原爆被爆者における死亡率、1950−70年

Jablon S, 加藤寛夫
編集者注:この報告書に基づく論文は、下記の学術雑誌に掲載されています。
  • Jablon S, Kato H: Studies of the mortality of A-bomb survivors. 5. Radiation dose and mortality, 1950-1970. Radiat Res 50:649-98, 1972
  • Jablon S, 加藤寛夫: 原爆被爆生存者の死亡率調査。第5報。放射線と死亡率との関係、1950−70年。広島医学 26:538-72, 1973
  • 要 約
    予研−ABCC寿命調査の調査対象(拡大コホート)における 1950年10月1日から 1970年12月31日までの死亡率について記述した。全死因による死亡率ならびに18の特定死因および外因死を含む死因群による死亡率に関して表を作成した。すなわち、全病死因、全悪性新生物、白血病、白血病を除く悪性新生物、胃の悪性新生物、消化器系の悪性新生物、肺の悪性新生物、呼吸器系の悪性新生物、乳房の悪性新生物、子宮頸と子宮の悪性新生物、その他の悪性新生物、良性新生物と性質不詳の新生物、新生物を除く全病死因、結核、中枢神経系の血管損傷、循環器系の疾患、その他の全疾患別に作表した。

    原則として、広島・長崎合計と広島・長崎別に、男女合計と男女別に、全年齢群合計と原爆時年齢0−9歳、10−19歳、20−34歳、35−49歳、50歳以上の各年齢群別に作表した。各表に20年の観察期間全体および1950−54年、1955−59年、1960−64年と1965−70年の4つの期間別に資料を示した。

    項目別の観察死亡数に対して全国死亡率をもとに計算した期待数を算定することにした。算定にあたっては、厚生省統計調査部が発表している年間死亡率を用いた。

    死亡率に対する放射線の影響をみるための解析は、主として中性子の推定線量とガンマ線の推定線量とを合計して得た暫定被曝線量(T65D)を用いて行った。中性子の生物学的効果比率がガンマ線のそれよりも約5倍高いものであるとみなした、いわゆるRBE線量を用いて若干の補足的な作表も行った。爆心地からの距離を用いた解析はいっさい行っていない。

    原爆時市内にいなかった対照群における死亡率がきわめて低いが、その主要原因は原爆後30日以内に入市した「早期入市群」の死亡率が極端に低い値を示したためであった。市内にいなかった群の一部を構成する後期入市者(原爆後 31日以上たって入市した人)の死亡率は、低線量被曝者(10rad未満)のそれよりも低かったが、このことは 1960年までに消失した。しかし、早期入市者は、この20年間一貫して低い死亡率を維持してきた。この傾向の例外は、白血病を除く悪性新生物による死亡率であった。すなわち、早期入市者の癌死亡率は、1960年までに後期入市者のそれに達し、1960−70年の期間には癌の死亡率に関しては市内にいなかった群と低線量被曝者群との間に差異はみられなかった。

    高線量被曝群における疾病による死亡率は、低線量被曝群および市内にいなかった群のそれよりも高かった。死亡率の増加は、白血病について特に顕著であって、放射線の影響は推定線量が 10−49radであった人にも存在しているようであった。白血病を除く癌による死亡率も高線量被曝群において上昇を示したが、確実に上昇の認められたのは 200radを越える線量を受けた群のみであった。

    新生物以外の死因による死亡率には軽微な増加が観察されたが、全体としては、脳卒中、循環器系の疾患および結核を含むその他の死因に対しては、放射線の影響はほとんどみられなかった。今回の調査では、死亡率に対する放射線の影響は、主として白血病と悪性腫瘍および良性または性質不詳の新生物などに限定されているようである。

    特定部位の癌に対する放射線の影響には差異が認められた。特に子宮頸癌、子宮体部癌および胃癌には、他の部位の癌に比べて放射線の影響が少ないようであった。しかし、サンプル変動が相対的に大きいので、これらの差異が正確であるとはいえない。

    原爆時年齢が10歳未満であった小児は、それよりも高い年齢で被爆した人に比較して強い影響を受けている。全病死因による死亡率を対象にした場合、200rad以上の線量被曝群においては、原爆時年齢が高いほど死亡比が減少し、0−9歳群から10−19歳群に至る際の減少は特に顕著であった。

    データが少ないので、線量反応曲線の型、特に低線量域における型については詳細な解析を行うことはできなかった。しかし、影響が総線量の線形関数ではないと反ばくされるような所見はデータに見られなかった。

    高線量群における白血病の死亡率は、観察した20年間にわたって一貫して減少してはいるが、最後の期間である 1965−70年においてもなお一般の水準までには下降していない。しかし、その他の癌の頻度は、この観察期間中上昇し、最後の期間である1965−70年においてはその上昇が顕著であった。したがって、白血病を除く癌の誘発に必要な潜伏期は、被爆者が受けた放射線量の範囲内ではだいたい 20年以上であろうと思われる。

    ガンマ線に対して中性子のRBEを 約5にすれば、白血病の場合はよく当てはまるが、他の癌ではこの値が低いようである。線量を単純に合計した場合、線量反応曲線はかなり直線型になるが、RBEを1以上にすればこの曲線は凸状になる。

    放射線の影響を“比”としてみた場合、すなわち、普通期待される死亡率に対する倍数とした場合、最も顕著な影響は白血病誘発効果である。しかし、放射線の影響を“差”としてみた場合、すなわち「放射線に起因する死亡数の増加」とした場合、200rad以上の線量群における20年間にわたる観察では、白血病を除く新生物(悪性新生物、良性新生物および性質不詳の新生物を合計した場合)に対する影響が、白血病に対する影響よりも若干大きいようである。
    編集者注:本報の次の部分は、伝染性疾病頻度、アレルギー、悪性腫瘍、および公衆衛生の観点から興味深い他の多くの症状に関するデータを含む。

    挿入図表一覧

     寿命調査拡大コホート

    1. 調査対象者数
    2. 観察人年、1950−70年
    3. rad単位のT65線量推定値
    4. 線量不明の被爆者の爆心地からの距離別分布
    5. rem単位のRBE線量推定値
    6. 全死因による死亡:T65線量別
    7. 外因死
    8. 全病死
    9. 全悪性新生物
    10. 白血病
    11. 白血病を除く悪性新生物
    12. 胃の悪性新生物
    13. 消化器および腹膜
    14. 気管、気管支および肺
    15. 呼吸器系
    16. 乳房(女性)
    17. 子宮頸および子宮体
    18. その他
    19. 良性あるいは性質不詳の新生物
    20. 新生物を除く全病死
    21. 結核
    22. 中枢神経系の血管損傷
    23. 中枢神経系を除く循環器系の疾患
    24. その他の疾患
    25. 白血病:RBE線量別
    26. 白血病を除く悪性新生物:RBE線量別
    27. 放射線による「過剰」死亡者数の計算
    1. 死亡比 全死因、線量不明群:期間別
    2. 死亡比 全病死、200rad以上の線量群:年齢別
    3. 死亡比 白血病、200rad以上および100−199radの線量群:期間別
    4. 死亡比 白血病、200rad以上および100−199radの線量群:年齢別
    5. 死亡比 白血病を除く悪性新生物、200rad以上および100−199radの線量群:年齢別
    6. 死亡比 気管、気管支および肺の悪性新生物、0−9radの線量群:期間別
    7. 死亡比 乳癌(女性)、50rad以上の線量群:年齢別
    8. 200rad以上の群の0−9rad群に対する相対的危険度、主要死因群別
    9. 200rad以上の群の0−9rad群に対する相対的危険度、各種の腫瘍による死亡
    10. 死亡比 白血病:T65D線量別
    11. 死亡比 白血病を除く悪性新生物:T65線量別
    12. 死亡比 白血病を除く悪性新生物200rad以上の線量群:期間および都市別
    13. 死亡比 白血病:T65線量別および都市別
    14. 死亡比 白血病:RBE線量別および都市別
    15. 死亡比 白血病を除く悪性新生物:T65線量別および都市別
    16. 死亡比 白血病を除く悪性新生物:RBE線量別および都市別
    17. 「過剰」死亡者数、全悪性新生物による死亡、200rad以上の線量群:期間別