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寿命調査 第11報 第1部

TR番号 12-87
寿命調査:第11報 第1部 DS86およびT65DRの遮蔽kermaならびに臓器線量に基づく部位別癌死亡リスク係数の比較

清水由紀子, 加藤寛夫, Schull WJ, Preston DL, 藤田正一郎, Pierce DA
編集者注:この報告書に基づく論文は、下記の学術雑誌に掲載されています。
Shimizu Y, Kato H, Schull WJ, Preston DL, Fujita S, Pierce DA: Studies of the mortality of A-bomb survivors. 9. Mortality, 1950-1985: Part 1. Comparison of risk coefficients for site-specific cancer mortality based on the DS86 and T65DR shielded kerma and organ doses.
Radiat Res 118:502-24, 1989
要 約
広島・長崎の原爆被爆者の被曝線量について総合的な再評価が行われた結果、1986年3月に個人線量推定のための新しい方法が導入され、これが1986年線量推定方式(DS86)と命名された。この方式と古い方式(T65DR)の差異は次のように要約できる: 1)DS86空中(FIA)ガンマ線量は、T65DRと比較すると、広島では若干増加するが長崎では減少する。これに対して、中性子線量は両市で減少し、広島では以前の値の 約10%、長崎では 30%程度になる。 2)木造の日本式建造物におけるガンマ線の透過係数は小さくなり、平均してみると、広島・長崎それぞれにおいて T65DR値の 約51%と 59%になる。 3)以上の結果、10mGy以上に被曝した被爆者の平均DS86総遮蔽kerma(個人遮蔽ガンマ線量および中性子線量の合計)は、広島・長崎それぞれにおいて、T65DR値の 69%と 76%に減少する。

本解析は総数 75,991人を対象としており、以後この対象集団を DS86 サブコホートと呼称する。この中には、大半の人に線量が付与できた遠距離被爆者(59,784人)、並びに、近距離被爆者19,387人(T65DRの距離に基づくと、広島では爆心地から 1,600m以内、長崎で 2,000m以内の被爆者)のうち、そのほとんどが日本式家屋または長屋内で被爆し、DS86線量が直接算出できる 16,207人が含まれている。

本報においては、特に、同一の被爆者集団(DS86サブコホート)について DS86線量を用いた癌リスク推定値と T65DRを用いて得られた推定値を癌部位別に比較する。このように比較を限定して行うのは、集団の定義の変化により影響を受けないようにして、推定リスクの変化の影響をできる限り直接評価するためである。別の報告書では、大まかな癌の分類を用いて、T65DR方式から得た結論と今や適切と思われる結論とを比較することが主な目的となっている。したがって、T65DRコホート全体との比較が行われた。また、この報告書では、生物学的効果比(RBE)に関する仮定の影響と、線量反応における非線形性の可能性に重点が置かれている。このようなことから、この報告書に述べられている新線量推定方式による変化は、本報で示すものより若干大きくなっている。

DS86線量 と T65DR線量 のいずれにおいても死亡率の増加が統計学的に有意な10種の癌部位、すなわち、白血病、白血病以外のすべての癌、胃癌、結腸癌、肺癌、乳癌、食道癌、卵巣癌、膀胱(尿路系)癌および多発性骨髄腫を用いて、1950−85年の間の癌死亡リスク係数を比較した。過剰相対リスク(1Gy当たり)、絶対リスク(104PYGy当たりの過剰癌死亡)、および寄与リスク(%)の三つのリスク指標を推定した。全体的に見て、遮蔽kermaにおいては、DS86線量が T65DR線量と比較して小さくなるので、これらの指標は予想通り増加する。DS86方式では、部位別の癌の過剰相対リスクは 1.35−1.51倍 高くなり、104人年Gy(PYGy)当たりの過剰癌死亡数は1.38倍から1.61倍高くなる。寄与リスクは両方式間で有意な差を示さない(DS86推定値とT65DR推定値の比は0.95−1.08である)。

DS86方式では、T65DRと比較して、特定臓器の平均透過係数は全体的に増加するが、家屋の透過係数は低下する。従って、臓器吸収線量(ガンマ線および中性子)の場合、家屋および臓器組織の透過係数の変化は互いに相殺される傾向にあるので、線形線量反応モデルを仮定すると、両線量推定方式間におけるリスク係数の差は遮蔽kermaの場合より小さくなる。DS86臓器吸収線量での104PYGy当たりの過剰癌死亡数(およびT65DRに対する比)は、白血病2.94(0.95)、白血病以外のすべての癌10.13(0.73)、胃癌2.42(0.72)、結腸癌0.81(0.83)、肺癌1.68(0.89)、乳癌1.20(1.33)、食道癌0.45(0.92)、卵巣癌0.71(1.11)、膀胱(尿路系)癌0.66(0.81)、および多発性骨髄腫0.26(0.90)である。DS86臓器吸収線量に基づくリスク係数は、T65DR値に基づく係数より全体的に低いことに注意すべきである。しかし、乳癌のリスク係数は、DS86において、臓器吸収線量レベルでも増加する。付言すれば、DS86方式では被爆者の被爆時の姿勢と方向が考慮されているが、T65DRでは考慮されていないことに注意すべきである。

癌死亡における広島・長崎間の差異は T65DR よりも DS86 では小さく、遮蔽kermaと臓器吸収線量のいずれにおいてももはや統計学的に有意ではない。被爆時年齢、性、被爆後経過時間などの放射線誘発癌の修正要因による影響の程度は、遮蔽kerma、臓器吸収線量のいずれにおいても、両線量推定方式間で変化しない。

DS86の中性子線量は非常に低いので、広島においてさえも、ガンマ線量と中性子線量を別々に用いた線量反応解析から中性子のみの効果を測定したり、そのRBEを推定したりすることにはあまり意味はない。得られたデータから推定したRBE値の信頼限界はかなり広範囲である。

DS86では、中性子RBEの値を1、10、20と仮定した場合、年齢および性の影響を補正した臓器線量当量でのガンマ線による104PYSv当たりの過剰癌死亡数は、白血病で 2.95、2.67、2.40、白血病以外のすベての癌で 10.1、9.41、8.76、胃癌で 2.63、2.36、2.10、結腸癌で 0.76、0.73、0.69、肺癌で 1.80、1.59、1.42、乳癌で 1.22、1.00、0.82である。したがって、異なる中性子RBE値を仮定した場合でも、ガンマ線によるリスクに実質的な相違は見られない。T65DR線量では、104PYSv当たりの推定過剰死亡は、仮定したRBE値に大きく影響されるので、仮定したRBEが増加するにつれて2方式間の相違は大きくなる。これは、両方式における中性子成分の相対的な重要性を反映している。RBEが10のとき、乳癌、結腸癌、白血病、肺癌および胃癌の五つの特定の癌では、DS86での104PYSv当たりの過剰死亡数の増加は12%(結腸)から133%(乳房)までの範囲である。

要約すれば、今回の放射線量再評価によって、放射線との関連の認められる癌の部位が変更されることはない。T65DR線量が用いられていたときに存在すると考えられた線量反応における都市間差(例えば白血病など)は、DS86線量ではもはや有意ではない。線形線量反応を仮定し、推定臓器吸収線量を用いると、両線量方式から得られるリスク係数は酷似している。ただし、遮蔽kermaに基づくリスク係数は新方式の方が約40%高い。大きなRBE値を仮定すると、中性子線量はT65DRの方がはるかに高いので両方式間の相違は増大する。
編集者注:本報の次の部分は、伝染性疾病頻度、アレルギー、悪性腫瘍、および公衆衛生の観点から興味深い他の多くの症状に関するデータを含む。

挿入図表一覧

  1. 研究対象者数;被爆状態、コホートおよび都市別
  2. 対象者数、人年および癌死亡数; DS86遮蔽 kerma 別
  3. 0.01 Gy以上に被曝した人の平均遮蔽keramaおよび臓器吸収線量 (mGy)
  4. 近距離被爆者の分布;T65DR線量推定の方法および都市別
  5. 1 Gy当たりの過剰相対リスク(DS86遮蔽kerma);T65DR線量推定の方法別−DS86サブコホート
  6. 遮蔽kermaに基づく癌死亡についての放射線量反応の要約指標に関するDS86とT65DRの比較−DS86サブコホート [両市、男女(特に別記しない限り)、すべての被爆時年齢を合計したもの]
  7. 臓器吸収線量に基づく癌死亡についての放射線量反応の要約指標に関するDS86とT65DRの比較−DS86サブコホート [両市、男女(特に別記しない限り)、すべての被爆時年齢を合計したもの]
  8. DS86およびT65DR推定値に基づく放射線影響の修正要因の比較−1Gy当たりの過剰相対リスク
  9. 総臓器吸収線量に基づく種々の線量反応モデルにおける偏差 (deviance) の比較
  10. 臓器吸収ガンマ線量および中性子線量に基づく種々の線量反応モデルにおける偏差 (deviance) の比較
  11. 特定のRBE値における広島の長崎に対するリスクの比−臓器線量当量
  12. DS86およびT65DR線量を用いた場合の特定のRBE値に対する104人年Sv当たりの過剰死亡の比較
  13. T65DR遮蔽kerma線量が6 Gy以上の被爆者の割合;DS86遮蔽kerma別

  1. ガンマ線および中性子の空中kerma;被爆距離、都市および線量推定方式別
  2. ガンマ線および中性子の遮蔽kerma;被爆距離、都市および線量推定方式別
  3. 白血病死亡率の遮蔽kermaおよび臓器吸収線量反応曲線;都市および線量推定方式別
  4. 白血病以外のすべての癌による死亡率の遮蔽kermaおよび臓器吸収線量反応曲線;都市および線量推定方式別
  5. 胃癌死亡率の遮蔽kermaおよび臓器吸収線量反応曲線;都市および線量推定方式別
  6. 結腸癌死亡率の遮蔽kermaおよび臓器吸収線量反応曲線;都市および線量推定方式別
  7. 肺癌死亡率の遮蔽kermaおよび臓器吸収線量反応曲線;都市および線量推定方式別
  8. 女性乳癌死亡率の遮蔽kermaおよび臓器吸収線量反応曲線;都市および線量推定方式別

付表

  1. 平均家屋透過係数;線量推定方式および都市別
  2. T65DRおよびDS86遮蔽kerma推定値の比較;都市別
  3. 平均臓器線量透過係数;線量推定方式別
  4. T65DRおよびDS86臓器吸収線量推定値の比較;都市別−骨髄
  5. 同上−大腸
  6. 同上−肺
  7. 同上−胃
  8. 同上−女性乳房
  9. 同上−膀胱
  10. 同上−卵巣
  11. 死亡における放射線線量反応の要約指標;両市、男女 (特に別記していない限り)、すべての被爆時年齢合計、1950-85年 (DS86サブコホート、DS86遮蔽kerma)
  12. 同上(DS86サブコホート、T65DR遮蔽kerma)
  13. 同上(コホート全体、T65DR遮蔽kerma)
  14. 総線量に基づく種々の線量反応モデルの偏差 (deviance) の比較−遮蔽kerma
  15. ガンマ線および中性子に基づく種々の線量反応モデルの偏差 (deviance) の比較−遮蔽kerma
  16. 広島の長崎に対するリスクの比;特定のRBE値別−遮蔽kerma
  17. 放射線誘発リスクにおける年齢および性の補正をした場合の補正をしない場合の各モデルにおけるリスク係数の比較−臓器吸収線量