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業績報告書(TR) 16-87

広島・長崎胎内被爆者の重度精神遅滞:T65DRおよびDS86線量方式による比較

大竹正徳,吉丸博志,Schull WJ
編集者注: この報告書に基づく論文は次に発表された。Congenital Anomalies 29:309-20, 1989;J Radiat Res (Tokyo) 32S:249-64,1991
要 約
広島・長崎原爆被爆者の被曝状況が総合的に再評価され、その結果、1986年3月に、線量システム1986(DS86)と呼ばれる新しい個人線量推定方式が導入された。このDS86方式と従来から放影研で利用してきたT65DR方式の両臓器吸収線量推定には重要な違いがある。T65DR方式による胎児吸収線量は母親の遮蔽カーマ線量に平均修正因子を掛けて求めた推定値にすぎない。一方、新しい方式による線量推定値は、明確な平均修正因子を用いずに、個人別に計算し、組織内に生ずる放射エネルギーの散乱をより正当に考量したものである。実際の胎児吸収線量はまだ利用できない。したがって、本報の比較は母親の子官推定線量に基づいている。T65DR線量が利用可能で、臨床集団に属する 1,598例のうち、DS86集団は 1,544例(96.6%)から成っており、重度精神遅滞であると臨床的に認められた30例全員が含まれている。最も妥当な線量反応関係を確認する目的で、閾値を含む場合と含まない場合の多様なモデルをグループ線量データに限らず個人線量データにも適用した。

以下、この比較結果を簡単に述べる。放射線被曝による重度精神遅滞のリスクは線量推定方式によってほとんど差がない。胎芽及び胎児の脳への放射線障害の最も高いリスクは、T65DR及びDS86線量の両方式において、受胎後 8〜15週に起こる。ほかの線量反応モデルもデータに適合するが、重度精神遅滞頻度として現れる 8〜15週齢の胎児への障害は、閾値を含まない単純な線形モデルが適合するようである。1Gyでのリスクは単純な線形モデルを用いた場合、T65DR方式で 約46%、DS86方式で 約43%であり、指数線形モデルを用いた場合、T65DR方式で 約56%、DS86方式で 約48%である。

DS86方式では、T65DR方式よりも 8〜15週齢の線量反応関係の閾値の存在が幾分強く現れる。しかし、その閾値の位置及び実在を評価するのは困難である。放射線に関連しない病因によると思われる5例を除外せず、線形モデルを用いると、グループ線量データは 約0.20Gyの閾値を示唆する。一方個人線量データからは 0.40Gyに近い閾値が得られる。閾値の推定値は当てはめたモデルによって、また放射線に関連しない病因によると思われる精神遅滞5例を含めるか否かによってかなり変動する。

受胎後16−25週の胎児の障害は、特にDS86集団については、線形−2次線量反応関係、又は、2次線量反応関係にあり、個人線量データを用いた線形モデルでは、0.70Gy(DS86線量)の近傍の閾値と、0.21Gyの 95%下限推定値を示唆する。グループ線量データが示唆する下限推定値は同じであるが、閾値の推定値は 0.64Gyである。