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業績報告書(TR) 4-89

広島・長崎原爆被爆者の水晶体後嚢下混濁と放射線との関係−T65DR及びDS86線量推定方式に基づく検討

大竹正徳,Schull WJ
編集者注: この報告書に基づく論文は次に発表された。Radiat Res 121:3-13,1990
要 約
電離放射線被曝によって水晶体に傷害が起こることが証明されており、以前の調査で広島・長崎の原爆被爆者に水晶体後嚢下混濁の発生が認められている。原爆被曝線量の再評価の結果、DS86と呼ばれる新しい線量推定方式が決定された。本報では、広島・長崎の原爆被爆者における水晶体後嚢下混濁の発現率と電離放射線との定量的関係を、この新しいDS86線量推定方式に基づいて再検討し、水晶体後嚢下混濁発生とガンマ線及び中性子との関係を評価し、更に以前のT65DR線量推定方式に基づくリスク推定との比較を行った。

前回の1982年調査の解析対象であった原爆被爆者 2,124名のうち 1,983名(93.4%)に対してDS86線量が利用可能である。広島原爆被爆者の場合、以前のT65DRに比べてDS86に基づくカーマ中性子成分は極めて少ない。しかし、広島におけるDS86カーマ中性子成分(総線量 6Gyで 0.38Gy)は、長崎の中性子成分(総線量 6Gyで 0.09Gy)の割合よりも依然として4.2倍も大きい。したがって、もし眼が中性子に対して特別に感受性が高いとすれば、特に広島において中性子の影響について何か有用な知見が得られるかもしれない。

線量反応関係は、推定されたガンマ線及び中性子線量別の関数として検討した。2つの閾値を仮定した場合と仮定しない場合に基づいて幾つかの線量反応関係モデルを考察し、モデル適合度における最小のChi2値、又は最大の対数尤度値によって最適モデルを選んだ。最もよい適合度を示したのは、ガンマ線について線形、中性子についても線形で、放射線に対して異なる2つの闘値を仮定した線量反応関係モデルである。

本報では、眼に到達したエネルギーをDS86方式に基づいて推定した眼の臓器線量とした。これに対して適合度が最もよいモデルにおいて、ガンマ線及び中性子線の回帰係数はともに正であり、極めて有意であると認められた。

個人データのDS86カーマ線量について見れば、DS86ガンマ線の回帰係数とT65DRガンマ線の回帰係数の比は 1.1倍(95%信頼限界:0.5〜2.3)であり、両者はほとんど同程度である。次に眼のDS86臓器線量とDS86カーマ線量との間のリスクを比べると、その比は 1.3倍(0.6〜2.8)である。しかし、中性子について見れば、DS86カーマの場合のリスク推定は、T65DRカーマの場合に比べて 6.4倍(2.2〜19.2)も高くなり、眼のDS86臓器線量ではDS86カーマの場合よりもリスクは 1.6倍(0.5〜5.2)高い。

眼のDS86臓器線量に基づいて求めた個人のガンマ線及び中性子線の各成分から得た相対的生物効果比(RBE)の推定値は 32.4+0.73/(Dnu−0.06)>0、その 95%信頼限界は 11.8から88.8+1.39/(Dnu−0.06)>0の範囲である。この場合、DnuはGy単位で示した中性子線量である。中性子線についてこのような閾値を使用した場合のRBE推定値は、Dnuが 0.07Gyのときに総線量 0.01Gyで105、Dnuが 0.16Gyのときに 0.10Gyで40、Dnuが 0.26Gyのときに 0.20Gyで36、Dnuが 0.36Gyのときに 0.30Gyで35などである。このRBEの 95%下限推定値から 12という定数が示唆される。なお、(Dnu−0.06)>0の制限から、Dnuが 0.06より小さい場合又は等しい場合にRBEを推定できないことに注意すべきである。

いずれにしても、眼に対する中性子成分の重要性は、人体の他の部位の場合よりも一層顕著であることがこれらの値から強く示唆される。中性子閾値の95%下限推定値につき、ゼロの場合を含めて考慮すると、RBEは 11.8から88.8+1.39/Dnuの範囲内で 32.4+0.73/Dnuとして推定される。

最後に、適合度がやや劣るが、ガンマ線について線形・2次関数関係、中性子線について線形関係を仮定した線量反応関係モデルを用い、二つの閾値を仮定したRBEの推定値が、ガンマ線について線形関係、中性子線についても線形関係を仮定した線量反応関係モデルに基づく推定値に極めて類似していることは興味深い。ただし、このモデルでは、ガンマ線の2次関数関係の同帰係数は線量と有意な関係を示さない。