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業績報告書(TR) 17-89

同一人由来のリンパ球と皮膚線維芽細胞の放射線感受性

久代淳一,中村 典,京泉誠之,西亀正之,土肥雪彦,秋山實利
編集者注: この報告書に基づく論文は次に発表された。Radiat Res 122:326-32,1990
要 約
マウスにおける研究によると、系統によって放射線による種々の影響に差異が認められる。純系のマウスに対して、ヒトはその遺伝的背景が不均一であるから、年齢や性だけでなく、遺伝子構成の違いによっても放射線に対する感受性に個人差があるのではないかという考えがある。もしも、そのようなことが事実であれば、原爆被爆者の疫学調査に依存するところが大きい放射線防護基準の設定のためには、高線量被爆者の平均放射線感受性が、一般集団と同じであるかどうか、もし偏りがあるとしたらその程度はどのくらいであるかという大変難しい問題が生じる。

従来、ヒト細胞を用いた放射線感受性の個人差に関する調査には、皮膚由来の線維芽細胞に、試験管内で既知の量の放射線を照射してコロニー形成頻度を調べる方法が用いられてきた。その結果によれば、恐らくは未知の遺伝的要因に起因すると思われる差異が示唆されている。最近になって、インターロイキン2が発見されたことにより、ヒト末梢血Tリンパ球のコロニー形成が可能になった。ところがリンパ球を用いた我々の予備調査の結果は、皮膚線維芽細胞で報告されているほどの個人差は認められなかった。これは、たまたま調査したリンパ球提供者が日本人集団を代表するものでなく、偏っていたのかもしれないし、あるいはリンパ球と皮膚線維芽細胞という異なった細胞に付随した固有の変動の反映であるのかもしれない。そこで、本調査ではこのどちらに原因があるのかを明らかにする目的で、外科手術をうけた22名の人について皮膚線維芽細胞とリンパ球の両方の放射線感受性を調査した。感受性の指標としては、細胞のコロニー形成能の喪失を用いた。

その結果は、D10値(90%の細胞がコロニー形成能カを喪失するのに必要なX線の線量)は、G0期照射Tリンパ球では 3.58±0.21Gy (平均±標準偏差)、対数増殖期照射の皮膚線推芽細胞では 3.19±0.37Gyであった。変動係数(CV)は各々 6%と 11%であった。

同一人由来のリンパ球の反復調査の結果も CV6%であったので、少なくともリンパ球に関しては、 放射線感受性に関する個人差は大変少なく、変動の大半は実験誤差に起因するものであると考えられた。したがって、同一提供者由来の2種類の細胞のD10値の間に統計学的に有意な相関が認められなかったのも、納得のいくことである。皮膚線推芽細胞において観察された CV11%は、従来の報告に見られる値とよく一致している。線維芽細胞を用いた調査CV値がリンパ球のそれよりも 約2倍も大きいということは、放射線照射によるDNA傷害の修復能力が細胞の種類により異なっているのか、あるいは皮膚線推芽細胞は見かけは同じでも質的に異なる集団から成り立っている可能性を示唆していると思われる。