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業績報告書(TR) 9-90

PHA刺激及び未刺激ヒトリンパ球細胞におけるガンマ線及び核分裂中性子誘発小核

伴 貞幸,Donovan MP,Cologne JB,澤田昭三
編集者注: この報告書に基づく論文は次に発表された。J Radiat Res (Tokyo) 32:13-22, 1991
要 約
人造放射性同位体252Cfは、癌の中性子療法に有効であり、他方、原爆放射線から放出される核分裂中性子の影響を評価する上でも有用な情報を提供するモデルと考えられている。本研究の目的は、健康ヒト末梢血リンパ球細胞中の小核誘発を指標として、252Cf から放出される低線量率核分裂中性子と 60Co から放出される低及び高線量率ガンマ線の生物学的影響を比較・評価することである。

3名の正常健常人(女性1人、男性2人)から得られた末梢血細胞に、採血後直ちに、又はPHA存在下で 24時間培養後に放射線を照射した。照射線量は、60Coガンマ線で 0、0.5、1.0、2.0、3.0Gy、252Cf放射線で 0、 0.25、0.5、1.0、1.5Gyであった。なお、252Cf放射線の 2/3が中性子で、1/3はガンマ線であった。培養開始 48時間後に cytochalasin B を添加し、その 24時間後に標本を作成した。各標本当たり 1,000個の二核細胞中の小核を数え、線量−効果関係(E=μ+αD+βD2)を求めた。60Coガンマ線の線量−効果関係ではβ値が有意であったが、252Cf放射線のβ値は有意ではなかった。G0、G1-Sのいずれの時期においても、低線量率ガンマ線よりも高線量率ガンマ線の小核誘発効果は高かった。低線量率 60Coガンマ線及び 252Cf放射線照射の場合、G0期及びG1-S期間における感受性に有意な差は認められなかった。高線量率 60Coガンマ線に対しては G0期よりも G1-S期が有意に高い放射線感受性を示した。252Cf中性子の小核誘発効果は高く、その生物学的効果比(RBE)は、種々の培養細胞を用いて出された線量−生存率関係を指標として報告されているRBE値とよく一致していた。

高線量率 60Coガンマ線に対する細胞周期上の感受性差を説明することはできないが、G0期及び G1-S期における染色体の三次元構造の違いが損傷間の異なる相互作用を引き起こし、染色体損傷修復に影響を及ぼすのではないだろうか。あるいは、潜在的致死損傷の回復(PLDR)―この機構については広く研究されているけれども、ほとんどわかっていない―が関与しているのかも知れない。252Cf放射線のRBE値が高く、G0期及び G1-S期間に感受性差が認められないことは、不均一な増殖形態をもつ癌の治療に有用であろう。ヒト集団に及ぼす原爆放射線、あるいは事故による放射線の影響を考える上で、個々人の放射線感受性差が被爆後の種々の医学・生物学的影響にどのように反映するのかを検討するのは重要である。本報告で用いた小核試験法は、電離放射線及び中性子の生物学的線量測定法としては非常に簡便であり、検査コストが安く、再現性の高い線量−効果関係が得られることから、大集団のヒト放射線感受性を評価する上での有用な一方法である。