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業績報告書(TR) 5-92

原爆被爆者における癌発生率。第2部 充実性腫瘍,1958-1987年

Thompson DE,馬淵清彦,Ron E,早田みどり,徳永正義,落久保幸夫,杉本純雄,池田高良,寺崎昌幸,和泉志津恵,Preston DL
Radiat Res 137S:17-67, 1994
要 約
本報は、寿命調査拡大集団(LSS-E85)における原爆被爆者の充実性腫瘍罹患データとリスク推定についての最初の包括的報告書である。対象者 79,972人のうち1958年から1987年の間に一次原発性充実性腫瘍が 8,613例診断された。広島・長崎の二都市間で標準化された腫瘍登録作業の一環として、LSS-E85コホート集団中に発生したがん症例を一部は手作業検索を併用してコンピュータ・リンケージ・システムにより確認した。症例確認の完全性、データ精度、および都市間におけるデータの整合性に特別の注意が払われた。全がんの 75%は組織学的に確認され、6%は直接肉眼的に診断され、8%は臨床診断に基づき、12.6%は死亡診断書のみによって確認された。対象となる各臓器および器官系について、一連の標準化した解析を行った。がんの部位に応じて、1986年線量推定方式(DS86)による臓器線量またはカーマ線量を用いてリスクを推定した。解析は、一般過剰相対リスク・モデル[バックグラウンド率×(1+過剰相対リスク)]に基づいて行った。部位別の解析では、次のモデルを当てはめた。すなわち線量効果を含まないバックグラウンド・モデル、影響修飾因子を含まない線形線量反応モデル、影響修飾因子を含まない線形二次線量反応モデル、ならびに影響修飾因子として、性、被爆時年齢、被爆後経過時間、到達年齢および都市の各共変量を含む一連の線形線量反応モデルである。腫瘍登録は、登録事業の対象地域内で確認されるがんについてのみ登録するので、転出の影響について考慮した。死亡に関するこれまでのLSS所見と同様に、全充実性腫瘍について統計学的に有意な過剰リスクが立証された[1Svでの過剰相対リスク(ERR1Sv)=0.63;104人年シーベルト(PYSv)当たりの過剰絶対リスク(EAR)=29.7]。胃(ERR1Sv=0.32)、結腸(ERR1Sv=0.72)、肺(ERR1Sv=0.95)、乳房(ERR1Sv=1.59)、卵巣(ERR1Sv=0.99)、膀胱(ERR1Sv=1.02)および甲状腺(ERR1Sv=1.15)のがんにおいて、放射線との有意な関連性が認められた。20歳以下で被爆した群において、神経組織(脳を除く)腫瘍の増加傾向があった。今回初めて寿命調査集団において、放射線と肝臓(ERR1Sv=0.49)および黒色腫を除く皮膚(ERR1Sv=1.0)のがん罹患との関連性が見られた。また今回の解析は、以前の少数例に基づく調査で見られた唾液腺腫瘍への原爆放射線の影響のこれまでの所見を一層裏付けた。口腔および咽頭、食道、直腸、胆嚢、膵臓、喉頭、子宮頚、子宮体、前立腺、腎臓および腎盂のがんには放射線の有意な影響は見られなかった。充実性腫瘍の部位別解析においても、また、全腫瘍をまとめた解析においても、広島・長崎間に顕著な差異は認められなかった(>0.5)。全充実性腫瘍の解析では、女性の相対リスクが男性の2倍であること、また、被爆時年齢の増加と共に相対リスクが減少することが示された(<0.001)。肺、全呼吸器系、泌尿器系のがんの相対リスクは、男性よりも女性の方が高かった。全消化器系、胃、黒色腫以外の皮膚、乳房および甲状腺のがんでは、過剰相対リスクは被爆時年齢の増加と共に減少した。全充実性腫瘍の過剰発生率は、到達年齢の増加に伴い、バックグラウンド罹患率に比例して増加した。被爆時年齢を調整しない場合、ほとんどの部位について過剰相対リスクは到達年齢の増加と共に減少する傾向が示された。いくつかのがん(結腸、乳房、中枢神経系および腎臓)によっては、過剰相対リスクが到達年齢と共に変化するモデルは、被爆時年齢の影響を含むモデルと少なくとも同程度の適合度を示した。絶対過剰リスク・モデルに基づく全充実性腫瘍の過剰発生率は、被爆後経過時間と共に増加した。全被爆時年齢について平均した相対リスクは被爆後経過時間と共に減少した。被爆時年齢群別に経時的動向を解析したところ、過剰相対リスクは被爆時若年群で時間の経過と共に減少し、高齢群では実質的には一定であることが示唆された。寿命調査は、がんのリスク推定のための主要なデータ源の一つとして役割を果たしてきた。従来の調査では、がんの死亡と放射線被曝との関係に重点が置かれてきた。このような死亡調査は極めて重要であるが、がん診断の精度に限界があり、生存率が比較的高いがんについては、死亡診断書から十分な情報は得られない。罹患データにも限界はあるが(例えば、症例確認が不完全なこと、死亡診断書診断に部分的に依存していることなど)、生存率の良いがんや、組織型および被爆からがん罹患までの期間に関するより完全なデータを提供できる。したがって、原爆被爆者の今後の解析においては、がんの死亡と罹患の両方に焦点を当てるべきである。