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原爆被爆者の子供(F1)に関する調査

放射線に関連する遺伝的異常がある場合、それが出生時の障害や健康影響という形で現れるかどうかが被爆二世(F1)健康調査の焦点です。

死亡率とがん発生率

放影研は、1946年5月から1984年の間に生まれた被爆者の子供(すなわち両親が原爆に被爆した後に受胎した子供)約77,000人の集団における死因とがん罹患を調査しています。調査の方法は 寿命調査集団 と同じです(戸籍を通じての死亡確認および地域がん登録を通じてのがんの診断の確認)。この集団の年齢が比較的若いことを考えると、原爆放射線被曝が死亡率やがん発生率に与える遺伝的影響に関して結論を出すには、更に追跡調査が必要です。

郵便調査 と 臨床健康診断調査

疫学部と臨床研究部の共同調査が2000年に開始され、被爆者の子供の生活習慣と健康状態に関する系統的な情報収集が開始されました。このプログラムの目的は、親の原爆放射線被曝が子孫を形づくる生殖細胞の損傷につながり、それが長期的健康影響として現れるかどうか、すなわち被爆者の子供に多因子疾患が増えているかどうかを調査することです。この調査は、親が被爆したことによって子供に生じたかもしれない突然変異を直接調べる遺伝生化学プログラム(下記参照)の相補的研究として行われています。

この調査には、原爆被爆者の子供だけでなく、被爆していない両親からほぼ同時期に生まれた子供も、比較のために含まれています。調査はまず質問票の郵送により、現在および過去の健康状態、喫煙や飲酒、食事、運動などの生活習慣について尋ねると同時に、臨床健康診断調査に参加する意思があるかどうかも尋ねました。質問票は2000年から約4年間かけて24,600人余りに送付され、そのうち約12,000人の方に2002年から2006年にかけて健康診断を受けていただきました。そして郵便調査による質問票のデータと臨床健康診断調査の結果に基づいて、成人期に発症する高血圧や糖尿病などの多因子疾患のリスクが親の放射線被曝に関連して増加しているかどうか解析が行われました。その結果、これらの疾患の有病率が増加したという証拠は認められませんでした。

なお、この調査は、放影研以外の科学者と倫理や法律の専門家で構成された、独立した科学委員会および倫理委員会による審議を経て実施されました。

2010年11月からは、健診による発生率調査が開始され、4年のサイクルで調査が継続されています。

遺伝生化学

このプログラムの焦点は、原爆放射線被曝により、被爆者の生殖細胞(精子や卵子)に突然変異が起き、その結果子供に異常が起きたかどうか(つまり親の放射線被曝による遺伝的影響)の解明に当てられています。

被爆した親と被爆していない親で生殖細胞突然変異率に違いがあるかどうかを調べるため、被爆者の家族から得られたDNAの調査が行われています。子供のDNAの変異が遺伝的なもの(つまり、被爆前から親に存在していた)か、生殖細胞突然変異(恐らく放射線被曝による)の結果なのかを究明するため、父・母・子供の3人を1組とし、DNAのヌクレオチド配列を比較しています。両親のどちらにも見られず子供だけに見られるDNAの変異は、新たに生じた生殖細胞突然変異であると考えられます。このような突然変異が検出された場合には、その発生率と親の被曝線量との相関関係を解析し、放射線がその一因であるかどうかを調べます。現在のプロジェクトには次のものがあります。
  1. 将来の分子学的調査のための試料の確保
    近年の分子生物学における急速な進歩により、遺伝子(DNA)とその産物(RNAや蛋白質)を直接調べることが可能となりました。少なくとも片方の親が被爆した500家族と、対照群として親の生殖腺線量が0.01 Gy未満もしくは被爆していない500家族の、親と検査可能なすべての子供から得たBリンパ球から永久細胞株が樹立されました。これらの家族から収集された細胞は−200℃の液体窒素の中に冷凍保存されています。
  2. DNA二次元電気泳動法
    この方法では、制限酵素で断片化し、その切断点をラジオアイソトープで標識した試料DNAを、二次元電気泳動法で分離します。乾燥した電気泳動ゲルのオートラジオグラフィーを行うことにより、X線フィルムにDNA断片をスポットとして可視化し、画像を作成します。1枚の画像に2,000−3,000のDNA断片がスポットとして観察されます。コンピュータプログラムを用いて父・母・子供の画像を比較解析することにより、多くの遺伝子について効率的に生殖細胞突然変異の検索を行うことができます。
  3. マイクロアレイを基盤としたcomparative genomic hybridization(アレイCGH)法
    DNAマイクロアレイ上で行われるcomparative genomic hybridization(アレイCGH)法は染色体で生じた欠失型、2倍体型変異および増幅型変異によりもたらされたサンプル間の遺伝子コピー数の変化を測定することができます。また、この方法は遺伝的変異の大規模スクリーニングを完全に自動で行うことができます。その上、数枚のスライドガラス上で、ヒト全ゲノムをスキャニングすることも可能です。この方法を用いることにより、遺伝調査集団の1人の対象者から膨大な結果が得られるとともに、多数の調査対象者を効率的に調査することも可能です。アレイCGH法はDNAレベルにおける遺伝調査に最も適した方法の一つです。