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第5回広島市民公開講座 前年に引き続き「放影研の保存試料の活用を考える」をテーマに

広島YMCA国際文化センターの国際文化ホールで開催された第5回市民公開講座

 放影研の保存試料の活用を考える市民公開講座を2014年11月22日午後、広島市中区の広島YMCA国際文化センター本館地下1階「国際文化ホール」で開催し、市民をはじめとする184名が講演とパネルディスカッションに耳を傾けた。このテーマは前年に続く第二弾で、市民公開講座は今年で5回目を数える。

 放影研には1947年に調査を開始して以来、被爆者と被爆二世からご提供いただいた血液、尿などの保存試料が保管されている。これらの試料を一元管理し、最新かつ最適な保存方法の導入を図るために昨年4月1日に生物試料センターを開設し、自動冷凍搬送装置の導入に向けて準備を進めてきた。同時にデータベース化されていない組織試料などの整理、更には研究所内外で利用するための各研究に即した品質管理あるいは倫理的な課題の整理・検討など、種々の側面から体制整備に向けて鋭意努力しているところである。

 放影研で保管する試料は、被爆者はもとより地元の方々のご理解とご協力によって集められたものである。従って、これらの試料を将来にわたって管理・活用していくための基本方針は、ご協力いただいている皆様方と、広く一般市民の方々のご意見を参考にしながら決めることが肝要と考える。そのために前年と同じテーマ「放影研保存試料の活用を考える パート2」を掲げ、放影研研究員による講演と、地元の方々をパネリストに招いたパネルディスカッションを企画した。

 講演は3部構成で、最初に疫学部病理学研究室の定金敦子室長代理が「原爆放射線の健康影響について、これまでに分かったこと」と題して講演した。次いで、保存試料を使ってこれからどんなことが分かるかについて、放射線生物学/分子疫学部の楠 洋一郎部長と臨床研究部の大石和佳部長が説明した。まず「遺伝子の変化が語る健康と病気のヒストリー」と題して楠部長が話し、続いて大石部長が「病気になる前の道しるべを求めて」の講演を行った。

 これらの基調講演を踏まえて、小溝泰義 広島平和文化センター理事長を座長に、パネリストの意見交換と、フロアーとの質疑応答が行われた。パネリストとして参加いただいたのは、原田 浩氏(被爆体験証言者、元広島市国際平和担当理事兼広島平和記念資料館長)、有田健一氏(広島赤十字・原爆病院呼吸器科部長)、金崎由美氏(中国新聞社 ヒロシマ平和メディアセンター)、古谷章子氏(ひろしま通訳・ガイド協会会長)で、放影研の児玉和紀主席研究員・生物試料センター長と楠部長、大石部長が加わった。

 パネリストの意見として原田氏は、被爆者はもとより被爆していない人のためにも充分活用できるという思いを改めて感じた。こういう機会を増やして多くの市民と情報を共有し、人類の共通財産として平和を前提に利用してもらいたいと述べた。有田氏は、患者からいただいた試料は人間の尊厳に関わるものなので大切に扱って行きたい。その意味で生物試料センターの設置は意義がある。今後も開かれた形で議論してもらいたいと発言した。金崎氏は、研究成果を一般の人にどう伝えるかが課題で、専門家の言葉が分かり難いことを経験した。生物試料を提供してきた被爆者にとって研究成果がどういうものであり、何に気を付ければ健康によいか、といった情報の提供の必要性を訴えた。古谷氏は、通訳ガイド協会の立場から、放射線が人体に与える影響を知りたい人たちのために放影研でのツアーをもっとアッピールしてはどうかと提案した。  放影研の保存試料を使うときにどういう制限と条件を設けるかについて市民の意見を聴くことが大事とする小溝座長の話を受けて、児玉生物試料センター長が、これから基準を作りに着手するが、いきなり外部でなく、所内の研究者を交えた共同研究の形でスタートし、その後、外部の研究者が使える道を探って行きたい旨の考えを示した。

 フロアーからの意見として国際的に貢献できる組織として、放影研を残し、広島から世界へ貢献すべきであるといった声や、ベラルーシの汚染地域での甲状腺がん標本の保存について、あるいは、保存試料の中に入市被爆者の試料があるのかどうかといった発言があった。

 今回の市民公開講座は、保存試料の活用を考えるという特殊なテーマであったにもかかわらず、前年を上回る大勢の市民にお越しいただき、若い大学生の姿も目立った。そのような中で、長年にわたって保管された放影研の保存試料が、放影研に留まらず、被爆地さらには世界の遺産として注目を浴びていることを踏まえ、その活用について話し合われたのは有意義だった。