寿命調査 第9報 第3部

TR番号 6-81

寿命調査:第9報 第3部 腫瘍登録資料、長崎、1959-78年

加藤寛夫, Schull WJ

 

編集者注:

この報告書に基づく論文は、下記の学術雑誌に掲載されています。
Wakabayashi T, Kato H, Ikeda T, Schull WJ: Studies of the mortality of A-bomb survivors, Report 7. Part III. Incidence of cancer in 1959-78, based on the Tumor Registry, Nagasaki. Radiat Res 93:112-46, 1983
若林俊郎, 加藤寛夫, 池田高良, Schull WJ: 原爆被爆者の死亡率調査。第7報。第3部。1959-78年の癌発生率、長崎腫瘍登録資料(その1)。広島医学 36:1011-23, 1983
若林俊郎, 加藤寛夫, 池田高良, Schull WJ: 原爆被爆者の死亡率調査。第7報。第3部。1959-78年の癌発生率、長崎腫瘍登録資料(その2)付録表。広島医学 36:1171-7, 1983

 

要 約

1959-78年の長崎腫瘍登録資料を利用して、長崎の放影研寿命調査(LSS)対象者における悪性腫瘍の発生率を調査した。

被爆状態による資料収集上の偏りを認めない。診断方法、症例を報告する病院、診断不確実な症例の頻度のいずれも被曝線量による差異はない。したがって、たとえ偏りがあるとしてもその偏りは小さいものであって、本調査の解析で得られた結果の解釈に影響はないはずである。

放射線誘発癌について見ると、白血病、乳癌、肺癌、胃癌および甲状腺癌の危険度は線量とともに明らかに増加し、結腸癌、泌尿器癌および多発性骨髄腫ではその増加は示唆的である。しかしながら食道癌、肝癌、胆嚢癌、子宮癌、卵巣癌、唾液腺腫瘍、および悪性リンパ腫について現在までのところ、線量の増加による危険度の増加は認められない。

致死性の癌について見ると、本調査の結果は、同じ寿命調査対象集団についての死亡診断書を利用した最近の死亡率調査の解析結果を補強するものである。一般に腫瘍登録資料に基づく相対危険度は、同じ年度の死亡率調査におけるそれと比べると、同程度かあるいはわずかに高めである。しかし、絶対危険度の推定値(100万人年rad当たりの過剰癌)は、腫瘍登録の方がはるかに高い。

長崎における原爆放射線は主としてガンマ線であったため、本調査はガンマ線被曝の線量反応曲線の形を検討する好機を提供した。白血病を除く癌、特に乳癌、肺癌、胃癌および甲状腺癌では、線量反応曲線として線形モデルが最もよく適合し、線形-二次関数モデルも同様と言えるが、二次関数モデルの適合度がよくなかった。これと対照的に、白血病では線形モデルや線形-二次関数モデルよりも二次関数モデルがよく適合する。しかしながら、統計的には1つのモデルを他のモデルと実際的に区別することはできない。更に資料の蓄積が必要であることは明らかである。

 

編集者注:

本報の次の部分は、伝染性疾病頻度、アレルギー、悪性腫瘍、および公衆衛生の観点から興味深い他の多くの症状に関するデータを含む。

 

挿入図表一覧

  1. 年齢調整を行った部位別発生率;長崎腫瘍登録および国内他地域の登録
  2. 腫瘍登録資料における対象例数および人年、1959-78年
  3. 全部位の癌;病院および線量区分別
  4. 全部位の癌;確認方法および線量区分別
  5. 全部位の癌;確認方法、線量区分別および期間別
  6. 特定部位の癌の106PYR当たりの過剰発生率および90%信頼区間;期間別
  7. 甲状腺および前立腺の癌;病型および線量別
  8. 特定部位の癌の106PYR当たりの過剰発生率;原爆時年齢および性別
  9. 特定癌の発生率の線量反応曲線に対する三つのモデルの適合性
  10. 過剰癌例の推定数およびその全癌例との割合

  1. 特定部位の癌の相対危険度(100+対0rad)および90%信頼区間;確認方法別、1959-78年
  2. 癌部位別の相対危険度(100+対0rad)および90%信頼区間;すべての確認方法を合計した場合、1959-78年
  3. 特定部位の癌の年齢-性調整を行った線量別平均年間発生率;すべての確認方法の合計、1959-78年
  4. 特定部位の癌の相対危険度;確認方法および期間別、1959-78年
  5. 特定部位の癌の106PYR当たりの過剰例数および90%信頼区間;確認方法別、1959-78年
  6. 特定部位の癌の平均年間発生率の観察値および期待値、1959-78年

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