成人健康調査 第5報

TR番号 9-71

ABCC-予研 成人健康調査:第5報 最初の5診察周期の結果、1958-68年、広島・長崎

Belsky JL, 立川 清, Jablon S

 

編集者注:

この報告書に基づく論文は、下記の学術雑誌に掲載されています。
Belsky JL, Tachikawa K, Jablon S: The health of atomic bomb survivors: A decade of examination in a fixed population. Yale J Biol Med 46:284-96, 1973
Belsky JL, 立川 清, Jablon S:原爆被爆者の健康状態:10年間にわたる固定集団の検診。広島医学 27:813-22, 1974

 

要 約

原爆被爆者を対象とするABCC-予研成人健康調査が現在の形で2年に1度の診察プログラムとして発足したのは 1958年である。この報告書には、広島・長崎における最初の10年間の検診所見を要約した。調査の最初の4年間の検診結果はすでに報告されている。

本報告書で取り上げた期間中においては、医師による診察、臨床検査、X線検査などの臨床検診の内容に実質的な変更はなかったが、新しい線量測定法の開発により、放射線量別に資料の解析を行うことが可能となった。この線量測定法、調査対象集団および検診方法についても簡単に説明した。

受診率は、この全期間を通じて相当高い水準に維持され、第5周期においても 約85%であった。1958-60年の期間において 約90%であった受診率はその後減少しているが、都市別、性別および被爆群別にほぼ等しい割合で減少した。この理由について考察した。各被曝線量群における疾病、特定の身体計測値、臨床検査およびX線所見について、都市、性、年齢および診察周期別に統計的比較を行った。これらの資料は、2年ごとの定期検診から入手したものであって、副研究から得たものではない。

考察は下記の項目別に行ったが、知見について次に簡単に要約してみると、

放射線影響は、甲状腺疾患(癌を除く)と眼の疾患に認められた。副研究では被爆者における甲状腺癌、乳房癌および肺癌の有病率増加がかなり明らかに認められているが、今回の解析では示唆的傾向を認めたにすぎない。高線量被曝者、特に原爆時に若年であった人は身長が低く、心臓および胸廓幅が小さく、また、たぶん血圧も低いだろうと認められたことは注目される。

両都市間における有病率の差について述べた。一般に、伝染病および寄生虫病ならびに肝臓とその隣接臓器の疾患の有病率は、長崎が高い。一方、糖尿病は広島でより高率に認められた。身体計測値は両市において同様であった。

男女間における疾患の差異について調べた。一般に、諸外国において報告されていると同様の所見を認めた。注目される例外としては、成人健康調査対象者中の男性に糖尿病が高率で、コレステロール値も高いことである。

年齢に関連した差異は、ほとんど予想されたとおりであった。体重と若干の血液学的数値において年齢の増加とともに減少がみられたことは興味ある事象である。

5回の診察周期間における変化について報告した。これらの変化は、社会経済的状態・栄養および医療傾向の影響を反映するものである。各種の比較の中でも、特にこの経時的変化についての所見は、観察された有病率傾向を説明するにあたって、医学研究者の交替や検査技法の変更による影響を示すのみならず、特定疾患に対する副研究プログラムがきわめて重要であることをも示している。

結論として、一般健康診断は受診者自身のためになるのみならず、疫学的道具として重要な情報を提供するものである。しかし、原爆放射線による影響と関係のある可能性を示す項目については、さらに詳細な調査を行う必要がある。

定期診察ならびに副研究のもとで収集された資科からは、少なくとも1つの重要な結論が得られる。原爆時に年齢が若く成長期にあった人、すなわち、胎児期ないし思春期にあって、高い線量を受けた人は、予研-ABCC調査対象集団中放射線障害に対して最も感受性が強い人であるということである。

 

編集者注:

本報の次の部分は、伝染性疾病頻度、アレルギー、悪性腫瘍、および公衆衛生の観点から興味深い他の多くの症状に関するデータを含む。

 

挿入図表一覧

  1. 生存者数(周期中間)
  2. 受診率
  3. 死亡者数
  4. 死亡率
  5. 被検者数、周期別
  6. すべての結核
  7. 潜伏梅毒
  8. その他の梅毒
  9. その他の伝染病および寄生虫病
  10. 消化器および腹膜の悪性新生物
  11. 呼吸器系の悪性新生物
  12. 乳房および性尿器の悪性新生物
  13. その他および部位不明の悪性新生物、甲状腺を含む
  14. アレルギー性疾患
  15. 甲状腺の疾患
  16. 糖尿病
  17. ビタミン欠乏症およびその他の物質代謝病
  18. 血液および造血器の疾患
  19. 中枢神経系の血管損傷
  20. その他の眼の疾患および状態
  21. 耳および乳様突起の疾患
  22. 動脈硬化性および変性性心臓疾患
  23. その他の心臓の疾患
  24. 高血圧性心臓疾患
  25. その他の高血圧性疾患
  26. 動脈の疾患
  27. 静脈の疾患およびその他の循環器系の疾患
  28. 気管支炎
  29. その他の呼吸器系の疾患
  30. 胃および十二指腸の疾患
  31. その他の腸および腹膜の疾患
  32. 肝臓、胆嚢および膵臓の疾患
  33. 腎炎およびネフローゼ
  34. その他の泌尿器系の疾患
  35. 関節炎およびリューマチ、リューマチ熱を除く
  36. 骨髄炎およびその他の骨、関節の疾患
  37. その他の筋骨格系の疾患

    診察およびX線学的所見

  38. 身長
  39. 体重
  40. 収縮期血圧
  41. 拡張期血圧
  42. 心臓横径
  43. 胸廓幅
  44. 心臓横径/胸廓幅
  45. 正常心電図
  46. 心筋虚血を示唆する心電図
  47. 心筋梗塞を示唆する心電図

    臨床検査所見

  48. 血色素量
  49. ヘマトクリット
  50. 血沈速度
  51. 総白血球数
  52. 白血球分類像:好中球
  53. 白血球分類像:リンパ球
  54. 白血球分類像:単球
  55. 白血球分類像:好酸球
  56. 白血球分類像:好塩基球
  57. コレステロール
  58. 尿酸
  59. 蛋白尿
  60. 糖尿
  61. 糞便血液
  62. 糞便虫卵または虫体

  1. 甲状腺疾患の有病率:放射線量および都市別、女性、原爆時年齢0-19歳
  2. その他の眼の疾患の有病率:放射線量および性別、広島、原爆時年齢0-19歳
  3. 平均身長:放射線量・性・都市別、原爆時年齢0-19歳
  4. 高血圧性心臓疾患の有病率:原爆時年齢・性・都市別
  5. 糖尿病の有病率:診察周期・性・都市別、原爆時年齢40-49歳

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