研究計画書 3-15

放射線影響研究所生物試料センターにおける試料・情報の収集・ 分譲

要約

多因子疾患の発症には、生活習慣、環境、個人の感受性、遺伝的影響など様々な要因が絡み合って影響を及ぼしている。従って近年は、疾患リスクを高める生活習慣や環境因子を同定する臨床、疫学研究と、生物試料を用いた基礎的研究を網羅的に行うことにより、特定の疾患の原因究明のみならず、疾患の早期発見や予防法の確立などが期待されている。このような研究のための有用な生物試料とは、十分な質と量、数を備え、試料提供者への説明と同意に基づく倫理性が確保されており、質の高い臨床情報や疫学情報、病理情報等が付随している必要がある。このため、これらの要件を兼ね備えたヒト試料を利用した大規模研究を支えるバイオバンクの基盤整備の重要性が増している。
原爆傷害調査委員会(ABCC)および放影研は、原爆被爆者やその子どもの血液、尿、病理標本、歯など様々な生物試料を保存してきたが、試料の保存方法や個々の試料に関連する情報の管理は、これまで各研究者や各研究部に任されてきた。今後貴重な試料を長期に良質な状態で保存し、生物試料を利用した研究を推進するためには、生物試料の集中管理と試料情報のデータベース化が必須であることから、2013年4月に生物試料センター(以下、「センター」という。)が発足した。
これに伴い、これまで各研究部で保存してきた試料やそれに関する情報(以下、「試料情報」という。)をセンターへ移管し、今後新たに収集する試料については、新規にマニュアル化した方法で処理し保管する。試料情報は放影研データベース内に格納し、一元的に管理する。保存する試料は、新たに策定する「品質管理マニュアル」に従って定期的に品質管理を行う。試料の利用については、生物学的試料委員会と共同で「放影研生物試料利用細則」を設ける。倫理的配慮として、本センターに携わる職員および研究員は、「放射線影響研究所 個人情報保護規程」、 および人を対象とする医学系研究に関する倫理指針、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理 指針など、適応される法令・指針を遵守する。インフォームド・コンセントの情報は、各試料におけ る情報のひとつとしてデータベース内に格納する。試料を提供する場合は適切に匿名化を行う。
このようにして、今後は放影研が保有する生物試料とこれに関する情報はセンターが一元的に管理し、その適切な保管および活用を図ることとし、これにより原爆被爆者やその子どもの疾患および生物学的、分子学的変化に及ぼす放射線影響の解明に貢献する。

 

戻る