• 市民公開講座

引き続いて翌日広島でも市民公開講座を開催

第6回市民公開講座で発表する福島県立福島高校の生徒
(広島YMCA国際文化センター国際文化ホールで)

 第6回目となる広島市民公開講座を2015年11月29日の日曜日、広島YMCA国際文化センター本館地下1階の国際文化ホールで開催した。放射線影響研究所(放影研)設立40周年を迎えた今年は被爆70年の節目の年でもあることから、「世界の中の放影研とその未来」をテーマに掲げ、放影研で行ってきた調査研究の成果と福島とのかかわりを概説し、将来に向けた展望を示した。肌寒い天候の中、143人の市民の皆さんが訪れた。

 このたびの公開講座は、これまでのパネルディスカッションの形態を改め、3部構成のプレゼンテーションと質疑応答の形で執り行った。プレゼンテーションに先立ち、来賓としてご臨席いただいた坪井 直 広島県原爆被害者団体協議会(広島県被団協)理事長のあいさつに続き、放影研設立40周年にあたり、調査研究に協力いただいている被爆者および被爆二世の方々へ、当研究所の職員が「感謝のことば」を述べた。

 プレゼンテーションではまず、児玉和紀主席研究員が「放影研の研究成果と福島との関わり、将来に向けた展望」と題して講演を行った。放影研の前身である原爆傷害調査委員会(ABCC)が1947年に調査を開始して以来、およそ70年という長期にわたる調査研究の中で判明した健康影響や今後に残された課題について概略を説明したほか、福島原発事故以降の放影研の活動、そして昨年から放影研が中心となって行っている約2万人を対象とした東電福島第一原発緊急作業従事者における調査研究のあらましを概説した。

 二つ目のプレゼンテーションでは、福島県立福島高等学校のスーパーサイエンス部が実施した福島原発事故以降の放射線をテーマとする課題研究について、同校2年生の安齋彩季さんと齊藤美緑さんが「福島県内外の高校生個人線量測定プロジェクト」と題して発表し、指導にあたった原 尚志教諭が線量測定の経緯などを補足説明した。

 プレゼンテーションの合間には、原爆で亡くなられた方々へ哀悼の思いを込めた合唱が広島市立舟入高等学校音楽部の皆さんによって披露され、深く心に染み入る歌声に場内は静まりかえった。

 「世界と放影研」と題した当日最後のプレゼンテーションは、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)のマルコム・クリック事務局長が行った。UNSCEARによるリスク推定は、世界各国の政府が放射線リスク評価と防護手段を策定する際の科学的根拠として用いられているが、その基盤となるのが放影研の調査研究の成果である。広島・長崎の原爆そして福島の原発事故による放射線被曝は物理的に大きく異なるものの、社会的、心理的、人体への影響という点で類似性が見られることから、世界において放影研の調査研究成果がどう活用されているかについて解説した。また、クリック事務局長は初めての広島・長崎に対する印象として、爆心地を実際に訪ね、被爆者から直接話を聞けたことが有意義であったこと、科学者として真実を冷静に見つめていきたいことなどを述べた。

 以上のプレゼンテーションを踏まえ、寺本隆信業務執行理事の司会でフロアーの皆さんとの質疑応答が行われた。公開講座の開会に先立ち、当日別会場で開催した「被爆者証言を聞く会」では、福島高校の生徒さんと原教諭、そしてクリック事務局長らが坪井 広島県被団協理事長を囲み、20歳のときに被爆し、幾多の病に耐えながら平和活動に携わった壮絶な体験談に耳を傾けた。

 冒頭で述べたとおり、放影研は今年で設立40周年を迎えたが、これはひとえに放影研の調査研究にご協力いただいている被爆者および被爆二世の方々のお陰である。皆さまのご協力に心より感謝を申し上げたい。