• 原爆被爆者の長期健康影響調査に関する「Q&A」

    放影研の研究者がよく受ける質問の中から、幾つかをピックアップして、このコーナーに納めました。初めてアクセスされる方にはもちろん、放影研で行われている調査・研究についてもっと知りたいと思われる方にも参考となるものです。
    また、福島原発関連のページに「福島第一原子力発電所事故 Q&A」を掲載しています。

    このコーナーでは、皆様からのご質問、ご意見をお待ちしております。 お問い合わせフォーム をご利用ください。 なお、放影研用語集 はこちらです。

Q1原爆によって亡くなった人の数はどのくらいですか?
A1

原爆による死亡は、被爆当日に起こったもの(爆風の圧倒的破壊力と熱線による死亡)のほかに、後になって生じたもの(放射線被曝による死亡)も考慮しなければなりません。しかし、軍関係者数に関する記録は焼失し、家族全員が亡くなった場合には死亡を報告できる人がいない、徴用された人の数が不明などの理由で、正確な人数は明らかではありません。そこで、現在考えられている原爆後2-4カ月以内に亡くなった人の推定人数を、都市別に表に示します。

表. 被爆当時の広島・長崎の推定人口および推定急性(被爆から2-4カ月以内)死亡者数
都 市
被爆当時の推定人口
推定急性死亡者数(範囲)
広島市
34万-35万人
9万-16万6千人
長崎市
25万-27万人
6万-8万人

被爆5年後の1950年に行われた国勢調査時の被爆者数の概算によると、広島市または長崎市で「被爆した」と答えた人は約28万人に上っています(ほとんどは旧市内での被爆と思われますが、被爆地点を記入するようにはなっていませんでした)。ただし、いわゆる入市被爆者(原爆投下後に市内に入った人)は、この中には含まれていません。

Q2原爆に被爆した人の中で、これまでに放射線が原因と考えられるがんはどれくらい発生していますか?
A2

表1は、寿命調査(LSS)集団におけるがん発症数(白血病死亡については1950-2000年、固形がん発症数については1958-1998年)を被曝線量に応じて示したものです。放射線被曝が原因でがんになり亡くなったと考えられる人の割合は(けがや火傷による急死の場合と同様)、爆心地に近いほど大きくなります(「放射線の健康影響」のうち、「固形がん」および「白血病」のページにある表も参照してください)。総じて、白血病死亡の約半数と固形がん発症数の約10%が放射線被曝に起因すると考えられます。LSS集団が両市の全被爆者の約半数と仮定すれば、2000年までの放射線被曝に起因すると考えられるがん発症総数は約1,900例と推定されます。

表1. 線量別の過剰白血病死亡数ならびに過剰固形がん発症例数

*白血病の場合は重み付けした骨髄線量(中性子線量を10倍したものとガンマ線量の和)、固形がんの場合は重み付けした結腸線量。
  該当する爆心地からの距離については表2を参照。
**市内不在者(NIC)群は固形がんには含まれているが、白血病の場合には含まれていない。

表2は爆心地からの距離と放射線量の関係を大まかにまとめたものです

表2. LSS対象者の重み付けした結腸平均線量と爆心地からの距離の関係
(個人によって遮蔽状態が異なるので、この線量と距離の関係は誰にでも一律に当てはまるわけではない)。

重み付けした結腸線量 爆心地からのおよその距離
広島 長崎
0.005 Gy
2,500 m
2,700 m
0.05 Gy
1,900 m
2,050 m
0.1 Gy
1,700 m
1,850 m
0.5 Gy
1,250 m
1,450 m
1 Gy
1,100 m
1,250 m
Q3放射線とがんの発生はどのような関係にあるのですか?
A3

がんによる死亡率(がんによる死亡者数)を解析するほかに、放影研は広島県、長崎県の 腫瘍登録 から得たがん 発生率 のデータを解析しています。

死亡率の調査は価値あるものですが、死亡診断書から得られるがんの診断の正確性には限界があり、死亡率調査では生存率の比較的高いがんがどれくらい発生しているかほとんど分かりません。

寿命調査集団の対象であり被曝線量が分かっている105,427人では、1958-1998年の間に一次原発固形がんが17,448例診断され、その約4分の3は組織学的に確認されたものです。口腔がん、食道がん、胃がん、結腸がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、膀胱がん、甲状腺がん、肝臓がん、黒色腫以外の皮膚がん、神経系がんで有意な放射線の影響が見られました。放射線以外の要因(例えば喫煙、特定の化学物質、様々なウイルスや細菌など)でもがんのリスクが高くなり得るので、放影研の調査ではがんを種類ごとに詳細に調べ、がんが発生する過程で放射線がどのような役割を果たしているか、またこれらの放射線以外のリスク因子と放射線が相互にどのように関係しているのかを究明しようとしています。

Q4放射線が原因と考えられるがんは、今も被爆した人たちに発生していますか?
A4

放射線が原因と考えられるがんは今も被爆者に発生しています。白血病の過剰例数は、特に子供の時に被爆した人たちに顕著に見られ、被爆後10年間が最も多かったのですが、その後は時間の経過と共に減少し、現在ではほとんど過剰例数は見られなくなりました。これに対して、白血病以外のがん(固形がん)の 過剰リスク は現在も続いており、被爆者の生涯を通じて認められると思われます。

Q5被爆者には、これまでがん以外にどのような健康への影響が認められていますか?
A5

寿命調査 の死亡率解析で、放射線とがん以外の病気による死亡の間に統計的に有意な関係があることが分かりました。(「放射線の健康影響」のうち、「がん以外の疾患による死亡」のページも参照してください。)

有意な放射線量 を受けた49,114人のうち、計18,049人が1950-1997年の間にがん以外の病気で亡くなりました。がん以外の病気で死亡するリスクを全部合わせても、がんで死亡するリスクよりはかなり小さいですが、人間の死亡全体を見ると、がん以外の原因の方が大きな割合を占めているので、放射線に関連するがん以外の病気による推定過剰死亡数は、放射線に関連するがんによる推定死亡数の約50-100%です(数字の範囲がこのように広いのは、データでは線量反応の形がまだ明らかになっておらず、データに当てはめることができる様々な反応の形により放射線に関連する過剰死亡数の推定値が異なってくるからです)。

2年に1度の 成人健康調査 を行っている臨床研究部では、放射線被曝と多くの悪性ではない(がんでない)病気の関係を解析しました。子宮筋腫・慢性肝炎・肝硬変・甲状腺疾患・心臓血管疾患で統計的に有意な過剰リスクが検出されました。

調査の結果、若い人たちの甲状腺は放射線に対する感受性がより高く、甲状腺がんが発生しやすいだけではなく、恐らく悪性ではない甲状腺疾患も発生しやすいことが示唆されました。

白内障 も放射線に関連する病気ですが、放射線被曝後、高線量であれば早くて1-2年、それより低線量であれば何年も経ってから症状が現れるようです。

原爆被爆者では、がん以外の病気の一部は、免疫機能の変化に関係しているかもしれません。被爆者を対象とした免疫学的調査で、被曝線量の増加に伴いヘルパーT細胞の割合が有意に減少することが示されました。(分子生物科学部の「免疫学研究」のページを参照してください。)

更に、ヘルパーT細胞の割合が低い人は心筋梗塞の有病率が有意に高い、ということも分かりました。これらの結果から、原爆被爆者の心筋梗塞はヘルパーT細胞の異常が一因であるかもしれないことが示唆されています。このような異常は微生物感染に対する免疫防御を低下させ、アテローム性動脈硬化症につながる可能性もあります。

Q6母親のおなかの中で被爆した人たち(胎内被爆者)には、どのような影響があったのですか?
A6

胎内被爆者には、放射線被曝による影響が幾つも認められています。すなわち、被曝線量の増加に伴う知能指数の低下、高線量被爆者における知的障害の頻度増加、成長・発育の低下などです。これらの影響の多くは、妊娠後(胎齢)8-15週の間に被爆した人に特に顕著に認められるようです。これらの人の死亡やがんの発生についても追跡調査が行われています。以前は、子供の時に被爆した人に見られるのと同程度に、被曝線量の増加に伴ってがんが増える傾向にありましたが、最近のデータは胎内被爆者の方がリスクが低い傾向を示しています。(詳しくは「放射線の健康影響」の「胎内被爆者における影響」 のページを参照してください。)

Q7被爆者から生まれた子供(被爆二世)にも放射線の影響があるのでしょうか?
A7

放射線が被爆者の子供にどのような影響をもたらすかは、被爆後早くから懸念された問題の一つでした。遺伝的影響を検出するための膨大な努力が1940年代後半から開始され、現在も続けられていますが、これまでに調べられた限りでは遺伝的な影響は見いだされていません。しかし、これまでの調査の中には放射線の遺伝的影響を検出するのに適していないものもあったので、このことは必ずしも影響がないことを意味しているわけではありません。

分子生物学における最近の進歩により、遺伝子(DNA)レベルでの遺伝的影響の検出が可能となってきました。そこで放影研では、遺伝的影響の調査のために血液細胞の保存を行っています。

被爆者の子供の死亡およびがん発生に関する追跡調査も継続して行われています。また、成人になって発症する生活習慣病について、親の放射線被曝の影響が見られるかどうかを明らかにするために、2002年から2006年にかけて被爆者の子供の臨床健康診断調査が初めて行われました。これまでのところ、成人期における疾患に放射線に関係する過剰例数は見られていませんが、この調査集団はまだ比較的若いので、結論を出すには更に数十年間の調査が必要であると思われます。

Q8放影研が調査している集団には、どのくらい被爆者がいますか? またどうやって調査の対象に選ばれましたか?
A8

死亡やがんの発生を長期にわたって追跡調査するための調査集団を設定することを目的として、1950年10月の国勢調査時に広島市または長崎市に住んでいた約20万人の被爆者の中から、約9万4千人が選ばれました。このうち約5万4千人が 爆心地 から2.5 km以内で 有意な放射線量Q11) に被曝しています。残りの4万人は2.5 kmよりも遠方での被爆のため、被曝線量は極めて低いと考えられています。

1950年の国勢調査で「被爆した」と答えた人は約28万人に上っています。これらの人の中で、近距離被爆者 (爆心地から約2.5 km以内で被爆)についてはおよそ50%、遠距離被爆者 (爆心地から2.5 km以遠で被爆)についてはおよそ25%が調査対象になっていると考えられています。しかし、国勢調査は被爆地点を記入するようにはなっていなかったので、正確なことは明らかではありません。

このほかに、戸籍が広島市か長崎市のどちらかにあり、1950年の国勢調査時にどちらかの市に住んでいたが原爆時には市内にいなかった2万7千人も、被爆していない比較群として調査対象になっています。以上のグループが12万人から成る 寿命調査 (LSS)集団 を構成しています。

この「寿命調査集団」のほかに、「成人健康調査(AHS)集団」、「胎内被爆者集団」、「被爆者の子供(F1)の集団」があります。AHS集団は1958年以来2年ごとに放影研が実施している健康診断の参加者で、寿命調査集団の中から選ばれた約2万3千人から成る集団です。胎内被爆者集団は原爆投下時に母親の胎内で被爆した約3,600人から成る集団です。被爆者の子供の集団は1946年5月1日から1984年末までに広島市または長崎市で生まれた約7万7千人で、被爆した親、および被爆していない親から生まれた子供の両方が含まれています。

Q9当初の調査対象被爆者のうち、どのくらいの人が現在生存していますか?
A9

2018年現在、調査開始当初の対象者の約23%の人が生存しており、10歳未満で被爆した人のうち約71%が生存しています。

2018年時点の放影研の調査対象者の平均年齢は82.4歳です。

Q10被爆者についての情報はどのようにして得られるのでしょうか?
A10

放射線による死亡やがんの発生を長期にわたって調査する上で追跡調査をしやすくするため、1950年の国勢調査で広島・長崎に住んでいたことが確認された人の中から選ばれた約94,000人の被爆者と、約27,000人の非被爆者の合計約12万人から成る寿命調査集団が設定されました。

原爆被爆者に見られる放射線の影響に関する情報は、この寿命調査集団全体を対象として、あるいは集団の一部を対象として、様々な形の調査から得られています。

 

  • 死亡率追跡調査では、登録された死亡と死因を調べています。 
  • 広島県・長崎県のがん登録に登録された地元の病院や医師によるがんの診断について調べています。
  • 生活様式やその他の要因について尋ねる郵便調査が、寿命調査集団に含まれている人たちを対象に約10年ごとに行われています。
  • 寿命調査集団の一部(成人健康調査集団)に2年ごとに健康診断を行っています。この健康診断を受けている集団はまた、細胞遺伝学的、免疫学的、分子疫学的調査の基盤でもあります。
  • 片方の親もしくは両親が被爆者である人のうち、約16,000人に染色体異常の検査を、約23,000人に血液の蛋白質の検査を行い、子供に遺伝した障害がないかどうかを調べています。1948-1954年に約77,000人の子供が、出生時障害 の有無を確認するため、誕生時と生後9カ月目に健診を受けました。
  • 郵便調査と健康診断により被爆二世の健康状態を調べています。2001年から約4年間かけて24,600人余りを対象に郵便調査を行いま した。2002年-2006年には、そのうちの約12,000人を対象に健康診断を行い、成人になって発症する生活習慣病について親の放射線被曝の影響が見られるかどうかを調べました。
Q11「有意な」放射線量とはどういう意味ですか?
A11

このホームページで紹介しているがんリスクに関する考察では、0.005 Gy(5 mGy)以上の放射線に被曝した人に焦点を置いています。0.005 Gy以下の低線量被爆者では、がんやその他の疾患の過剰リスクは認められていません。

0.005 Gyは、日常の生活において一般の人が受ける1年間の放射線量(0.001-0.003 Sv、バックグラウンド放射線 または 自然放射線 ともいう)より高い値であり、放射線作業従事者に現在認められている年間の最大被曝線量(0.02 Gy)の約4分の1に相当します。

0.005 Gy以上の放射線被曝は、広島では 爆心地 から約2,500 m以内、長崎では約2,700 m以内に相当します。0.005 Gy以上の放射線に被曝した被爆者の平均線量は約0.2 Gyです。被曝線量は、爆心地からの距離が200 m増えるごとに約2分の1に減少します。

 

図.爆心地からの距離と空中線量との関係。標準的な家屋内で被爆した場合、 放射線量は50%以上減少する。右側には一般的な生物学的症状、 およびその他の放射線源による被曝量を示す。

Q12広島・長崎にはまだ放射能(放射性物質)が残っているのですか?
A12

いいえ、実質的には残っていません。

原爆が炸裂して、その結果残留放射能(放射性物質)が生じることになるのですが、その出来方には2通りあります。一つは、核分裂生成物 あるいは核物質自体(広島原爆に使用されたのはウラン、長崎原爆に使用されたのはプルトニウムです)が放射性降下物(フォールアウト)として降ってきて地上を汚染するものです。同じような土壌汚染がチェルノブイリ事故でも起こりましたが、その規模ははるかに大きなものでした。 → [詳しい説明はこちらをご覧ください

残留放射能(放射性物質)のもう一つの出来方は、中性子線が地面や建物に当たって生じるもので(中性子放射化)、放射能を持たない物質に放射能を帯びさせることにより生じます。

放射性降下物(フォールアウト)

広島・長崎の原爆は、地上600 m(広島)、503 m(長崎)の高度で爆発しました。そして巨大な火球となり、上昇気流によって上空に押し上げられました。爆弾の中にあった核物質の 約10%が核分裂を起こし、残りの90%は火球と共に成層圏へ上昇したと考えられています。

その後それらの物質は冷却され、一部が煤(すす)と共に黒い雨となって広島や長崎に降ってきましたが、残りのウランやプルトニウムのほとんどは恐らく大気圏に広く拡散したと思われます。当時、風があったので、雨は爆心地ではなく、広島では西部(己斐、高須地区)、長崎では東部(西山地区)に多く降りました。

この地上汚染による最大被曝線量は、広島では 0.006-0.02 Gy、長崎では0.12-0.24 Gy*と推定されています。爆心地での降下物による被曝線量は上記の値の約6分の1と考えられています。

現在では放射能は非常に低く、特に1950年代60年代を中心に世界中で行われた(地下ではなく)大気圏核実験により世界中に降った放射性降下物による微量の(プルトニウムなどの)放射能との区別は困難です。

*これらの線量推定値は、放射性降下物の集積外部被曝線量を測定するために、当初使用されていた単位である空気中のレントゲン被曝線量(1-3 R)に、空気中のラド(空気 中の吸収線量)の算出には0.87を、組織中のラド(人体の組織における平均吸収線量)の算出には0.7を掛けて得られた数値を、さらに100で割ってラドからグレイに換算したものである。より詳細な情報は、放射線影響研究所が出版した「U.S.-Japan Joint Reassessment of Atomic Bomb Radiation Dosimetry in Hiroshima and Nagasaki Final Report」(DS86 ※)第6章の224ページを参照。DS86は、https://www.rerf.or.jp/library/scidata/scids/ds86/ds86a.htmlから閲覧できる。
(※)DS86の正式な出版物は、国際言語としての英語版のみである。日本語版はそれを和訳したのみであり、正式版とはみなされていない

中性子放射化

原爆から放出された放射線の90%以上はガンマ線で、残りが中性子線でした。

中性子線には、ガンマ線とは異なり、放射性でない原子を放射性の原子に変える性質があります。爆弾は地上よりかなり上空で爆発したので、爆弾から放出された中性子線は、地上に届いても弱いものでしかありませんでした。ですから、原爆の中性子線によって生じた誘導放射能は、ネバダ(アメリカ南西部)、マラリンガ(オーストラリア南部)、ビキニ環礁、ムルロワ環礁などの核実験場で生じたような強い汚染ではなかったのです。

これまでの推定では、爆発直後から今日までの 爆心地 における最大放射線量は広島で 0.8 Gy、長崎で 0.3-0.4 Gyと考えられています。また爆心地からの距離が 0.5 kmの場合には爆心地における値の約1/10、1 kmでは 約1/100と考えられています。この誘導放射能は爆発後の時間経過と共に急速に減少しました。すなわち、爆発後1日目に上記の値の約80%、2-5日目までに 約10%、6日目以降に残り10%が放出されたと考えられています。爆心地付近は、火災がひどく翌日までほとんど立ち入りできなかったことを考えると、誘導放射能による被曝線量は、上記爆心地の値の 20%(広島では 0.16 Gy、長崎では 0.06-0.08 Gy)を超えることはほとんどなかったのではないかと思われます。

チェルノブイリ事故では放射能汚染が深刻でしたが、なぜ原爆の場合にはそれほどでもなかったのでしょうか?
背景

チェルノブイリ原発事故に伴う放射性物質の放出

基本情報

チェルノブイリ原発の核燃料は合計180トン、ウランの濃縮度は2%。すなわち、ウランだけでは3,600 kg。大気中に放出された燃料は 7トンと推定(ウランに換算して200 kg相当)。核燃料の中に含まれる核分裂物質の量は、核燃料を長く燃焼させるほど増える。

広島原爆のウラン総量は濃縮度不明だが、ウランだけで推定64 kgくらい。核分裂反応はこのうちの1.56%程度(ウラン約1 kg)に生じたにすぎないようである。

原発の事故で炉心が溶けると、揮発性の放射性物質は大量に空中に放出される。希ガスは100%、ヨウ素は50-60%、セシウムは20-40%が放出されたと推定されている。


1.  全体の核燃料の量が、チェルノブイリ原発(180トン、ウランに換算して3,600 kg)では広島原爆(爆弾の総重量は約4トン、ウランに換算して約64kgと推定されている)と比較して100倍以上多い。

2.原発事故は炉心が溶けるという状態になったので、熱により拡散しやすい揮発性の放射性物質は大量に放出された。希ガスは100%、ヨウ素は50- 60%、セシウムは20-40%が放出されたと推定されている。従って、放出された核燃料物質自体は全体の数%(7-10トン)と推定されているが、放出された放射能の量は放出された核燃料の量に比例せず相当多い。

3.広島原爆で核分裂を生じたのはウラン全体の1.56%くらい(1 kg)と推定されている。原爆は空中で爆発したので、火の玉となり火球は高温のため上昇して成層圏に達した。一部は黒い雨となって地上に降ったが、その他は風によって運ばれ薄められて広範囲に分散した。

Q13「要覧」の22ページ図12について、21ページの解説では、子宮の良性腫瘍、甲状腺疾患、慢性肝疾患、白内障および高血圧について原爆放射線の影響が示されていると記述されています。他の疾患については、この図から、どのようなことが言えるのでしょうか?
A13

図12に掲載されている他の疾患については、この図の基になった論文で行われている解析の範囲では、放射線被曝と関連してその頻度が増しているとは言えません。

図では、被曝線量1Gy当たりの相対リスクが黒丸で示されています。また、その黒丸を挟んで横線が描かれているのが分かると思いますが、この横線は相対リスクの95%信頼区間を示し、相対リスクの信頼性を表します。従って、この横棒が、リスクがないことを表す1.0を越えてリスクの高い右側に位置していると統計的に有意にリスクが高いと解釈できます。しかし、1.0を跨ぐと、放射線リスクが有意にあるとは言えません(信頼区間の範囲に、放射線に関連して疾患の頻度が統計的に減る可能性が含まれるからです)。

従って、お尋ねの他の疾患は図で横棒の位置を見ますと、相対リスク1.0を跨ぎますので、統計的に有意なリスクがあるとは言えないことになります。

参考文献