原爆被爆者における白血病リスク

白血病の過剰発生は、原爆被爆者に最も早く認められた放射線被曝による後影響である。1940年代後半に、広島の臨床医山脇卓壮氏が、自身の医師業務を通じて白血病症例数の増加に初めて気付いた。それがきっかけとなって、白血病と関連疾患の症例登録制度が発足し、白血病リスクの増加に関する最初の論文が1950年代前半に発表された。

放射線に起因する白血病のリスクは、二つの点でほとんどの固形がんと異なる。まず、放射線による白血病の発生率増加は、固形がんよりも大きいこと(しかし白血病は比較的まれな疾患なので、高線量被爆者の間でさえも絶対的な症例数は少ない)。次に、白血病は被爆後、早期に増加(特に子供で顕著)したことである。過剰白血病は被爆後約2年で発生し始め、被爆後約6-8年の間にピークに達した。現在では、過剰発生はほとんどない。

寿命調査(LSS)集団は1950年の国勢調査を基に設定されたので、原爆被爆者における白血病リスクの解析は1950年以降の期間に限られている。寿命調査集団の中で0.005 Gy以上の線量を骨髄に受けたと推定される49,204人のうち、2000年までに204例の白血病死亡例が確認されており、このうち原爆放射線に起因すると推定される過剰例数は94例(46%)である(表)。他のがんとは対照的に、白血病の線量反応関係は二次関数的であり、低線量では単純な線形線量反応で予測されるよりもリスクは低くなっている。しかし0.2-0.5 Gyの低い線量範囲においても白血病リスクの上昇が認められている(図1)。

表. LSS集団における白血病による死亡の観察数と推定過剰数、1950-2000年

重み付けした
骨髄線量(Gy)
対象者数
死亡
寄与率
観察数
推定過剰数
0.005 – 0.1
30,387
69
4 6%
0.1 – 0.2
5,841
14
5
36%
0.2 – 0.5
6,304
27
10
37%
0.5 – 1.0
3,963
30
19
63%
1.0 – 2.0 1,972 39 28 72%
>2.0 737 25 28 100%
合 計
49,204
204
94
46%

 

 

図1. DS02とDS86による白血病のノンパラメトリックな線量反応、1950-2000年。
被爆時年齢20-39歳の人の1970年における男女平均リスク。

LSS集団においては、急性および慢性の骨髄性白血病と急性リンパ球性白血病のみにリスクの増加が認められている。成人T細胞白血病(長崎では低い頻度で生じているが、広島ではほとんど発生していない)や、慢性リンパ球性白血病(西欧諸国とは極めて対照的に日本では非常にまれ)にはリスクの有意な増加は認められていない。固形がんの発生リスクと同様に、白血病の発生リスクもまた被爆時年齢に大きく影響を受ける(図2)。年齢の違いによって白血病のタイプにも違いがあり、急性リンパ芽球性白血病は若年者に多く見られるが、慢性および急性骨髄性白血病は高齢者に多く見られる。

 

 

図2. 被爆時年齢ならびに到達年齢による過剰白血病死亡(過剰絶対リスク)への影響(1 Gy被曝の場合)

白血病はまれな疾患なので、原爆被爆者の相対リスクは大きくても症例数として考えた場合には比較的小さくなる。すなわち、白血病はLSS集団のすべてのがんによる死亡の約3%、および全死亡の1%未満にすぎない。白血病による過剰死亡者数は、現在のところLSS集団の放射線被曝に関連するがんによる過剰死亡者数の約16%を占めている。被爆していない日本人においては、白血病の生涯リスクは約7例/千人である。これに対して、LSS集団における0.005 Gy以上の線量を受けた被爆者(平均被曝線量約0.2 Gy)の生涯白血病リスクは約10例/千人(相対リスクは約1.5)である。

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