原爆被爆者における部位別のがんリスク
胃、肺、肝臓、結腸、膀胱、乳房、卵巣、甲状腺、皮膚などの主要な固形がんの場合には、有意な過剰リスクが認められている。統計学的に常に有意であるわけではないが、他の多くの部位におけるがんにもリスクの増加が認められる。従って、被爆者のデータは、放射線が事実上すべての部位におけるがんの過剰リスクを増加させるという見解と合致している。部位別リスクは、性別と被爆時年齢により異なるので、図1ではそのような差について調整し、被爆時年齢30歳(男女平均)の人が70歳に達した時のリスクとしてデータを示すことで部位間のリスクを比較している。これらの条件下では、全固形がんを合わせた過剰相対リスク(ERR)は、1Gyの放射線被曝で47%である。部位間でリスクに差があるように見えるが、ばらつきの幅は統計的には有意ではない。これは部位によってはがん症例数が少ないことも一因となっている。
図1. LSS集団における被爆時年齢30歳(男女平均)の人が、70歳に達した時の1 Gy
当たりの部位別がん発生率の過剰相対リスク。横線は90%信頼区間を示す。
図2には寄与リスク(全症例のうち放射線が関与している割合)について同様の部位別データを示す。がんの過剰症例数(カッコ内に示す)が多かったのは、胃(150例)、女性乳房(147例)、肺(117例)、結腸(78例)、甲状腺(63例)、および肝臓(54例)であった。
図2. 被曝群(≥0.005 Gy)に生じた部位別のがん症例数、1958-1998年。
白の部分が放射線被曝により過剰に生じたと思われるもの。
部位別がんの発生率データの解析は、がんの死亡率調査よりも質が高いことが多い。なぜなら、発生率調査は、より良い診断情報を提供し、甲状腺がんや皮膚がんのような致死性の低いがんの発生率評価を可能にするからである。すべての固形がんを合わせると、過剰相対リスクについては、発生率(1 Gy当たり47%)と死亡率(42%)は同等であったが、過剰絶対リスクについては、発生率は死亡率の1.9倍であった(1万人年Gy当たりの過剰症例数は、発生率52例、死亡率27例)。