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3日間にわたる定例の科学諮問委員会を広島で開催

科学の専門家からなる外部組織、第46回科学諮問員会が、2019322日から24日まで、放影研広島研究所で開催されました。

長きにわたって原爆被爆者を追跡したデータに基づく調査の結果は膨大なため、科学諮問委員会では、毎年すべての部署を審査するわけではありません。審査される部署は、毎年変わっており、今年は、分子生物科学部が包括的に審査を受けました。また、設置が計画されており、バイオサンプル研究センターがその主要な部分を占めることになる「研究資源センター」が、特別な審査を受けました。

審査にあたって、日米10人の科学諮問委員に加え、昨年より2人多い、5人の特別科学諮問委員が任命されました。このうち米国の2人、日本の1人の委員に、分子生物科学部の審査をサポートいただきました。また、統合データ資源、バイオバンクの運営が専門である、米国の1人、日本の2人の委員が、研究資源センターの審査のサポート役に指名されました。研究資源センターは、放影研が将来も必要とされるために、最も力を入れるべき活動とみなされており、このたび、前述した統合データ資源、バイオバンクの運営が専門の特別諮問委員に参加いただく運びとなりました。

3月22日、理事長の丹羽太貫のあいさつにより会議が始まりました。副理事長兼研究担当理事 Robert L. Ullrichが、前年の科学諮問委員会の勧告への対応と主要な放影研の研究活動について報告。また、戦略計画を立案し、“使命を背負った研究”の継続とそれをしっかり戦略計画に組み込むことの重要性を説明しました。“使命を背負った研究”とは、線量推定の研究とともに放影研の研究の中核をなす、原爆被爆者の健康に対する放射線の後影響の研究を示します。

研究担当理事 Ullrichの発表では、バイオサンプル研究センターに保管されているバイオサンプルの利活用と研究資源センターの戦略計画にも触れました。DNAシーケンスと非DNAシーケンスの両方の研究で、放影研のバイオサンプルを利用することの重要性についても強調されました。続いて、設立が計画されている研究資源センターを含む放影研の施設について報告があり、放影研の将来にとって、そして、他の研究機関との共同研究を実施するためには、研究資源センターが重要であることも触れられました。

昨年、包括的な審査を受けた統計部は、昨年の科学諮問委員会の勧告に対する対応を発表するとともに、現在の活動を説明。続く分子生物科学部は、現在行っている研究に関する詳細な発表を行いました。

会議2日目の323日、委員は、最近組織された、がん、遺伝、非がんという三つの研究プロジェクトからなるリサーチクラスターシステムに関して、この研究の実務担当者と議論をしました。クラスターシステムとは、異なった部署に所属する研究員たちが研究プロジェクトに集められ、課題を共有しながら研究を行っていけるよう考えられたものです。このシステムは、科学諮問委員から相当な関心と称賛を得ていました。

その日の終わりに、理事長 丹羽、副理事長兼研究担当理事 Ullrich、業務執行理事 児玉は、放影研の将来における業務全般の運営戦略計画を説明しました。

最終日の324日、科学諮問委員会は、放影研に対する勧告を討議し、その内容を理事たちと話し合いました。午後、審査が終わった後の遅めの時間には記者会見が開催され、マスコミ5社が集まりました。会見の冒頭、共同座長である酒井一夫委員(東京医療保健大学 東が丘・立川看護学部教授)と、同じく共同座長のCurtis Harris委員(米国国立衛生研究所・国立がん研究所 がん研究センターヒト発がん研究室室長および分子遺伝学・初がん部門部長)が、3日間の審査の概要を説明しました。

記者会見では、科学諮問委員会での審査のポイントが説明されました。科学諮問委員会は、バイオサンプルの一元管理や品質のテストといった、2018年に新しく就任したセンター長が牽引している業務が引き続き前進するのを見たいという意向を示しました。この業務は、昨年の科学諮問委員会での勧告によるものです。酒井委員も、動物実験の結果が、直接、人間の調査データと結びつかないうちは、動物実験は被ばくをした人の子どもに放射線が影響するメカニズムを理解するのに重要なアプローチとなりうると、繰り返し指摘していました。また、科学諮問委員会からは、新設した動物実験室を最大限利用してほしいとの要望も受けました。

我々が直面している大きな問題の一つである人材獲得に関しては、放影研の今後を左右する貴重なバイオサンプルを活用した研究を行うために、トレーニングが必要な経験の浅い研究者からこの分野に熟練した専門家まで、バイオインフォマティクス分野の専門家を採用することを望むとのことでした。

酒井委員は、部署間の垣根を越えてテーマ毎に研究者が集まることで効果を発揮する、新しいリサーチクラスターシステムを、繰り返し称賛しました。

終わりに、酒井委員は、科学諮問委員会の放影研に対する期待は、研究活動を通して、健やかなる人類社会へ貢献し続けることだとの意見を表明されました。

 

科学諮問委員
Curtis Harris米国国立衛生研究所・国立がん研究所 がん研究センターヒト発がん研究室 室長 および分子遺伝学・発がん部門部長(共同座長)
酒井 一夫: 東京医療保健大学 東が丘・立川看護学部 教授(共同座長)
Francesca Dominici米国ハーバード公衆衛生大学院 学部長室 研究部門上級副学部長 兼 生物統計学部 生物統計学 教授
永田 知里: 岐阜大学大学院医学系研究科 疫学・予防医学分野 教授
Jonine Bernstein米国 Sloan Kettering 記念がんセンター 生存・転帰・リスクプログラム担当疫学者 兼 共同リーダー
山下 俊一: 長崎大学 学長特別補佐
Nilanjan Chatterjee: 米国ジョンズ・ホプキンズ大学医学部 ブルームバーグ公衆衛生大学院 腫瘍学部 生物統計学科 ブルームバーグ特別教授
権藤 洋一: 東海大学医学部 基礎医学系 分子生命科学 教授
甲斐 倫明: 大分県立看護科学大学 人間科学講座 環境保学研究室 教授
Andrew Feinberg米国ジョンズ・ホプキンズ大学医学部 ブルームバーグ医学特別教授 エピジェネティクス・センター所長

特別科学諮問委員
Patrick Concannon米国フロリダ大学 遺伝学研究所 所長
Mary Edgerton米国テキサス大学MDアンダーソンがんセンター 病理学・臨床検査医学部門 病理学部 准教授
荻島 創一: 東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 医療情報 ITC 部門 教授
島田 義也 国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 理事
John Weinstein 米国テキサス大学 MD アンダーソンがんセンター 生命情報学・計算生物学部 教授・部長、システム生物学部 教授、Hubert L. Stringer 記念がん研究教授

監事
河野 隆:: 弁護士法人 広島総合法律会計事務所(広島公認会計士共同事務所・広島総合税理士法人)
Paul Thrasher: 公認会計士、財務コンサルタント

オブザーバー
丹藤 昌治: 厚生労働省 健康局総務課 課長補佐
磯﨑 敦子: 厚生労働省 健康局総務課 主査
Patricia Worthington米国エネルギー省 環境保健安全保障局 保健安全部 部長
Isaf Al-Nabulsi米国エネルギー省 環境保健安全保障局 保健安全部 国内・国際健康調査室 室長代理
Gregory Symmes米国学士院 学術会議 地球生命研究部門 常任理事
Charles Ferguson米国学士院 学術会議 地球生命研究部門 原子力・放射線研究委員会 常任幹事
Rania Kosti米国学士院・工学院・医学院 原子力・放射線研究委員会 上級プログラム担当官

放影研
丹羽 太貫: 理事長(代表理事)
Robert Ullrich副理事長兼研究担当理事
児玉 和紀: 業務執行理事
Eric Grant主席研究員
林茂利: 事務局長事務代行