原爆放射線と白血病の病型:最新情報

原爆被爆者における白血病症例の最近の再分類は、放射線被ばくの影響が白血病の病型によって異なることを示す。

長崎大学医学部付属原爆後障害医療研究施設後障害治療部門 朝長万左男、松尾辰樹
放影研統計部 Randolph L Carter

この記事は RERF Update 3(4):5-6, 1991に掲載されたものの翻訳です。


血液学および分子生物学における最近の進展により、自然に発生する(de novo)白血病は大別して急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)という4つの病型に分類することが確立されてきた。これらは造血幹細胞の分化過程で癌遺伝子を含む明確な遺伝子異常により発生することが明らかになっている。

  

著者。左から朝長万左男、 松尾辰樹、 Randolph L Carter。

 

過去40年間 ABCC―放影研で実施されてきた広範な調査は、原爆放射線が白血病、特に急性白血病および慢性骨髄性白血病の過剰例を誘発したことを実証してきた。戦後まもなくは原爆放射線の白血病誘発の影響は若年被爆者で明らかに大きかったが、その後これは他の群に比べてより急速に減少した。原爆時に若年でなかった人々では、影響は後になって認められ、長く存続した。

初期の調査のほとんどが、1960年代初期の診断方法およびT65D線量推定値を用いた症例確認に基づいており、急性白血病および慢性骨髄性白血病に焦点を当てている。120,000人の寿命調査(LSS)集団内の白血病症例数は、細かく区分した白血病型別の放射線被ばくの影響を解析するには十分ではなかった。また古い診断方法では現在の免疫学的視点による急性骨髄性白血病と急性リンパ性白血病の分類をしておらず、各亜型の広範な調査が極めて困難であった。しかし最近になって、French-American-British分類システムが広範に用いられるようになり、急性骨髄性白血病と急性リンパ性白血病を分類する形態学的および細胞化学的基準が確立され、これらはその後の免疫マーカー解析において極めて有用であることが実証されている。

初期の調査が実施されて以来、成人T細胞白血病(ATL)などの新しい白血病の存在が確認されている。HTLV-1ウィルスによって誘発される成人T細胞白血病は、長崎市がある九州に集中して発生している。

 

原爆被爆者の白血病症例の再分類

白血病症例は現在21の区分に分類できる。LSS集団の大きさを考えるとこのような細かい分類はできないので、ここで「オープン都市症例」と呼ぶ原爆被爆者集団全体からの追加症例でLSSデータを補足した。1980年末までに、原爆時に爆心地から 9km以内にいた被爆者から、766例がABCC―放影研に登録された。そのうち 493例(LSS対象者 177例)は適切な血液学的および病理学的標本に基づき再分類され、このうち 413例(LSS対象者157例)は DS86により線量が推定された。選択による偏りの有無を慎重に検討した後、これら 413例を用いて、DS86線量推定値・原爆時年齢・都市・被爆後経過時間の関数として急性リンパ性白血病・急性骨髄性白血病・慢性骨髄性白血病およびその他の白血病型(ここでは「その他」と呼ぶ)の割合を推定した。次に、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病およびその他の罹患率へのカーマ、原爆時年齢、都市、被爆後経過時間の影響を急性骨髄性白血病罹患率への影響と比較するために、推定された割合を用いて相対リスク比を算出した。すべての白血病のうち急性骨髄性白血病が最も頻度が高いのでこれを基準の病型として選んだ。この相対リスク比を用いて主要な白血病型への放射線被ばく影響の差異が統計的に解析できたので、被爆者のオープン都市集団からの補足症例が利用できた。(朝長らの業績報告書、TR9-91が出版されている。)

 

新たな情報

白血病の4つの病型すべてにおいて罹患率がカーマに伴い増加した。急性骨髄性白血病およびその他に比べ急性リンパ性白血病および慢性骨髄性白血病の罹患率への放射線の影響が有意に大きかった(表を参照)。50mGy未満、恐らく 16mGyほど低いカーマ値でも急性リンパ性白血病および慢性骨髄性白血病の過剰症例が明らかに発生しているが(表参照)、50mGy以上、恐らく少なくとも 229mGyのカーマ値が急性骨髄性白血病過剰を発生させるには必要であった。これらの影響の差は、急性リンパ性白血病および慢性骨髄性白血病の罹患率が自然発生レベルに戻るにつれ消失した。

最も低い2つのカーマ区分(1-49 および 50-499mGy)では、推定罹患率は一定か、被爆者集団の加齢に伴い少し増加した。しかし、最も高い2つの区分(500-1499mGy および ≧1500mGy)では、すべての病型の推定罹患率は原爆時年齢 16歳未満の人々において被爆後経過時間に伴い減少した。急性リンパ性白血病と慢性骨髄性白血病の罹患率は成人期に被爆した人々でも同様に減少したが、急性骨髄性白血病の罹患率は一定か、または時間の経過に伴い増加した。≧1500mGy区分 では最終調査期間(1976-1980年)まで急性骨髄性白血病および急性リンパ性白血病の過剰は続いたが、慢性骨髄性白血病およびその他は続かなかった(表参照)。

表. 急性リンパ性、慢性骨髄性、およびその他の病型の白血病への
放射線被ばくの影響を急性骨髄性白血病への影響に比較した相対リスク比a

 

a特定カーマ・レベルにおける非被爆者のリスクに対する各白血病型のリスクを、対応する急性骨髄性白血病の相対リスクで除したもの。1.0より大きい相対リスク比は、急性骨髄性白血病よりも特定の白血病への放射線誘発影響が大きいことを示唆する。比率が1.0未満の場合は急性骨髄性白血病リスクへの特定放射線レベルの影響の方が大きいことを示唆する。

b急性リンパ性白血病;慢性骨髄性白血病;成人T細胞白血病ならびにその他の具体的に診断された白血病を含むその他の白血病型

*有意性0.10レベルで1.0から有意に異なる相対リスク比

**有意性0.05レベルで1.0から有意に異なる相対リスク比

 

カーマの増加に伴い急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病および慢性骨髄性白血病の発症までの時間は減少した。しかし、減少率は急性骨髄性白血病よりも急性リンパ性白血病および慢性骨髄性白血病の方が大きかった。高いカーマ値での差異は原爆により誘発された急性リンパ性白血病および慢性骨髄性白血病の潜伏期が急性骨髄性白血病よりも短いことを反映している。白血病の型について調整を行った場合、白血病発症までの時間は原爆時年齢によって有意な影響を受けなかった。

被爆していない人々において、広島に対する長崎の慢性骨髄性白血病の推定リスクは急性骨髄性白血病よりも有意に低かったが、成人T細胞白血病症例が長崎のみで発生したのでその他の病型は有意に高かった。長崎よりも広島で(成人T細胞白血病を除き)全般的に罹患率が高くなっているが、これは自然発生率への都市の影響によるものと思われる。

したがって、LSS集団の症例と、また追加的にオープン都市集団から得られた症例の最近再分類した白血病症例の解析は、以下のような幾つかの重要な所見を明らかにしている:

  • 原爆放射線被ばくは主要な白血病型の誘発に様々な形で影響を与えた。急性骨髄性白血病に比べて急性リンパ性白血病および慢性骨髄性白血病は早期に低線量で誘発されたが、これは急性リンパ性白血病および慢性骨髄性白血病罹患率に及ぼす原爆放射線の影響の方が大きいことを示唆する。
  • 急性骨髄性白血病および急性リンパ性白血病の過剰は両方とも1980年まで続いた。
  • 長崎に比べて広島の被爆者において成人T細胞白血病以外の白血病罹患率が全般的に高いのは、単に両市の白血病自然発生率の差異に比例しているだけかもしれない。
  • 原爆時年齢と白血病発生までの期間に関して以前認められた関係は本調査では確認されなかった。白血病の病型から独立したかたちで、原爆時年齢が白血病発生までの期間に有意に関係する所見は認めなかった。
  • 原爆により誘発された白血病の形態学的特徴は自然発症のヒト白血病と区別できないことが再分類により示された。

これらの所見は、放射線誘発による白血病発生についてだけでなく白血病の自然発症に関する理解を深めるための情報を提供している。年齢分布は自然発症白血病の病型によって異なることが知られている。これらの差異は原爆に関連する白血病にも観察された。原爆放射線は、白血病が発生しやすい被爆者の小集団において、白血病の自然発症を加速させることにより白血病を誘発したのかもしれない。

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