成人健康調査 第7報

TR番号 1-92

成人健康調査:第7報 原爆被爆者における癌以外の疾患の発生率、1958-86年(第1-14診察周期)

Wong FL, 山田美智子, 佐々木英夫, 児玉和紀, 秋葉澄伯, 嶋岡勝太郎, 細田 裕

 

編集者注:

この報告書に基づく論文は、下記の学術雑誌に掲載されています。
Wong FL, Yamada M, Sasaki H, Kodama K, Akiba S, Shimaoka K, Hosoda Y: Noncancer disease incidence in the atomic bomb survivors: 1958-1986. Radiat Res 135:418-30, 1993

要 約

1958年から1986年までに収集された成人健康調査(AHS)コホートの長期データを用いて、悪性腫瘍を除く19の疾患の発生率と電離放射線被曝との関係を初めて調査した。疾患の診断は、2年に1度のAHS検診で行われる一般臨床検査、理学的検査、問診に基づいて行った。検診結果は3桁の国際疾病分類(ICD)コードによりコード化され、AHS受診者データベースに入っているが、これが症例確認の基礎となっている。ただし、正確な疾患の発生時期に関する情報は入手できないため、疾患が初めて報告されたAHS受診の日付と疾患発生前に受診した最終検診日との中間時点を、推定疾患発生日として用いた。被曝線量はDS86線量体系から得た最も適切な臓器線量を用いた。層別された非被曝群の発生率に基づく線形相対リスクモデルを用いて、線量効果を解析した。

子宮筋腫、慢性肝疾患および肝硬変、また甲状腺癌を除く甲状腺所見が一つ以上あることという大まかな定義に基づく甲状腺疾患に、統計的に有意な過剰リスクを認めた。子宮筋腫についての所見は、良性腫瘍が放射線被曝により発生する可能性を示す新たな証拠となるものである。肝臓の放射線感受性を示す今回の結果は、重度被曝群において肝硬変による死亡が増加するという最近の寿命調査(LSS)の報告を裏付けるものである。甲状腺の非悪性疾患に被爆時年齢の影響が認められ、被爆時年齢が20歳以下でリスクは上昇し、20歳以上ではリスクの上昇は認められなかった。このように、癌発生率に関する最新のLSS報告書にあるように、甲状腺悪性腫瘍の発生という点だけでなく非悪性疾患の発生から見ても、若年者の甲状腺は放射線感受性が他に比べて高いことをAHSのデータも示している。我々の所見は、甲状腺悪性腫瘍に認められた線量効果とは独立して認められるものである。

心臓血管系の疾患については、いずれにも有意な線量反応関係は認められなかった。しかし、近年、若年被爆者では心筋梗塞の発生が増加しており、特に最近2、3年ではこの傾向はほかの調査でも認められる。AHSにおいて心筋梗塞と確認された症例は77例に限られ、この中には致死症例は含まれていない。今回有意な結果が得られなかったのは症例数の不足のためかもしれない。

また、今回の調査は、1958年から1986年にAHS受診者の白内障の新たな発生が放射線量に伴って増加していないことを示唆している。

今回得た結果は、癌以外の疾患における急性電離放射線被曝影響を探求する上でのAHSの有用性と重要性を強調するものである。本報告書により、さらに詳しく調査する価値のある疾患に関心が向けられ、今後の調査への弾みとなることを期待する。

 

編集者注:

本報の次の部分は、伝染性疾病頻度、アレルギー、悪性腫瘍、および公衆衛生の観点から興味深い他の多くの症状に関するデータを含む。

 

挿入図表一覧

  1. 19種の癌以外の疾患とその国際疾病分類(ICD)コード
  2. 疾患診断の情報源
  3. a.成人健康調査の1-14周期における受診状況別の成人健康調査対象者の分布
    b.被爆時年齢別成人健康調査対象者9,641人の分布
  4. 1986年線量システム(DS86)の区分別成人健康調査対象者9,641人の分布、総カーマ(平均値±SDは0.49Gy±0.86)
  5. 疾患症例数と観察バックグラウンド発生率
  6. 19種の癌以外の疾患における線量反応値の要約測定値、広島および長崎、男女合計、1958年から1986年までの発生率
  7. 影響への修飾因子により有意な線量反応を示す三つの癌以外の疾患の影響修飾因子
  8. 修飾因子別白内障、脳卒中、心筋梗塞の1Gyでの推定相対リスク(RR)

  1. 成人健康調査サンプルの追跡調査における疾患発生時期推定の概略図
  2. 有意な線量反応関係を示した疾患の観察相対リスクおよび当てはめた相対リスク、および観察相対リスクについての95%の信頼限界
  3. 被爆時年齢20歳未満、20歳以上、および両方を合わせたすべての対象者の甲状腺疾患の推定相対リスク

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