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第50回科学諮問委員会を開催

第50回科学諮問委員会を日本時間の2023年3月22日から24日まで、3日間にわたって開催しました。新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、会議は今年もリモート形式で行いました。この委員会は、科学的な各分野を専門とする外部の専門家からなる組織で、放影研で進められている調査・研究を審査し、新たな研究計画の採択や、進行中の研究の継続・変更に対して、放影研の理事会ならびに評議員会に勧告します。

3日間の会期中、日本と米国から科学諮問委員7名、特別科学諮問委員4名、合計11名が参加しました。また、厚生労働省、ならびに米国エネルギー省の担当官、および放影研評議員、監事もオブザーバーとして参加し、会議を視聴しました。

科学諮問委員会で重点的な審査を受ける部門は毎年変わります。今回は臨床研究部と研究資源センター(科学研究およびバイオサンプル〔生体試料〕に関するデータの統合や、共同研究における利用上の支援を担う部門)が重点的な審査を受けました。その他、統計部、疫学部、分子生物科学部、情報技術部についても、審査が行われました。加えて、被爆者や被爆二世の方々からご提供いただいた尿や血液といったバイオサンプルを、超低温冷凍庫で保存し、管理しているバイオサンプル研究センターも審査を受けました。会議では、重要議題として放影研の戦略計画についても話し合われました。この計画は今後の科学研究および組織運営の戦略的枠組みとしての役割を果たしています。

初日、3月22日の会議では、放影研理事長の丹羽太貫が戦略計画について、被爆者ならびに被爆二世の方々に放影研の研究成果がどのように還元できるかなどについて、重点的に説明を行いました。放影研副理事長 兼 業務執行理事のロバート・ウーリックは研究計画全般の概要とその支援体制について言及しました。先述の臨床研究部の重点的な審査もこの日に実施されました。

2日目の3月23日は、主に研究資源センターについて議論が交わされました。その他、統計部、疫学部、分子生物科学部、バイオサンプル研究センター、情報技術部の研究についても同様に議論されました。最終日24日の午前は、放影研の戦略計画に関連する取り組みと優先すべき課題に焦点が当てられました。

こうした議論を経て、委員は3日間の会議の内容を踏まえた勧告の作成に入りました。全体総括の後、記者会見がオンラインで開催され、マスコミ7社8名の方にご参加いただきました。会見の冒頭、国際医療福祉大学クリニック教授 兼 院長の鈴木元博士が共同座長の立場から3日間の議論の概要をメディアへ説明しました。もう一人の共同座長で、米国スローン・ケタリング記念がんセンター 生存・転帰リスクプログラム担当疫学者兼共同リーダーであるJonine Bernstein博士は、時差のため記者会見は欠席となりました。

鈴木博士は科学諮問委員会のポイントとして以下を説明しました。
・会議の時間が限られるため、研究内容の説明動画については事前にオンラインで配信し、質問やコメントを提出したうえで、実際の会議中は質疑応答を主軸としました。
・今回の会議の重点的な審査対象は臨床研究部と研究資源センターであったため、日米7名の科学諮問委員に、臨床研究(循環器病学)と研究資源管理の専門家4名が特別科学諮問委員として加わり、合計11名が参加した。
・戦略計画では放射線の健康影響の背後にあるメカニズムを明らかにするため、最先端技術を導入することに力点が置かれている。昨年の科学諮問委員会での勧告に従い、戦略計画はより具体的になり、実現のための課題が明確になった。
・科学諮問委員会としては、分子生物科学部が取り組んでいるトリオゲノム研究(3人1組の親子1000組にご協力いただき、被爆二世の方々のゲノムに親の生殖細胞由来の変異の数が増えているかどうかを調べることで、親の被ばく線量に基づく親子間の遺伝的影響を明らかにする)を推進するため、所内方針と規定づくりが進んでいることを嬉しく思う。放射線の遺伝的影響を明らかにすることは、ABCC時代から追い求めてきた放影研の最も重要な研究課題である。
・臨床・疫学データや年代ごとに保管されているバイオサンプルを用いて総合的な解析を行っている放影研は、膨大な研究データを所有している世界に類を見ない組織であり、これから、適時、所外の研究者と共にそのデータを用いて共同研究を行うことを推奨する。
・臨床研究部が永年収集してきた臨床データと、最新の解析技術とを組み合わせることで得られた情報は、放射線の健康影響の背後にあるメカニズムを解明するための貴重な資産である。今後は疫学部や統計部とも連携を取りながら研究を進めることが望ましい。
・優先順位の高い研究資源センターの組織化は大きく前進した。研究資源センターは、研究にご協力いただいている被爆者・被爆二世の方々から提供される全ての資料を記録・保存し、統合するために不可欠であり、次世代の研究のためにも、そのデータの保存やアクセスが確保できるよう、さらなる前進が求められる。
・最後に、放影研の膨大な歴史的資料が記録・保存され、その貴重な資料が失われることがないよう、研究資源センターの役割・機能を強化させなければならない。

科学諮問委員会への参加者一覧は下記の通りです。

科学諮問委員
Jonine Bernstein:米国スローン・ケタリング記念がんセンター 生存・転帰リスクプログラム担当疫学者兼共同リーダー(共同座長)
鈴木 元:国際医療福祉大学クリニック教授 兼 院長(共同座長)
Gayle Woloschak:米国ノースウェスタン大学フェインバーグ医学研究科 放射線腫瘍学部 教授
甲斐 倫明:日本文理大学 新学部設置準備室 教授
松田 文彦:京都大学大学院 医学研究科附属ゲノム医学センター長
永田 知里:岐阜大学大学院医学系研究科 疫学・予防医学分野 教授
島田 義也:公益財団法人 環境科学技術研究所 理事長

特別科学諮問委員
Paul Spellman:オレゴン健康科学大学医学部Knightがん研究所 がん早期発見先端研究センター共同センター長、医学部分子遺伝学・遺伝医学学科 教授
上妻 謙:帝京大学医学部附属病院 循環器センター長
Melissa Haendel:オレゴン健康科学大学 保健データセンター長 コロラド大学 Anschutz校 データサイエンス部門Marsico記念教授 研究情報科学主任
荻島 創一:東北大学高等研究機構未来型医療創成センター/東北メディカル・メガバンク機構 医療情報ICT部門 ゲノム医療情報学分野教授

監 事
河野  隆:広島総合法律会計事務所 公認会計士・税理士
Paul D. Preziotti:公認会計士 Johnson Lambert LLPパートナー オブザーバー
岡野 和薫:厚生労働省健康局総務課 原子爆弾被爆者援護対策室長
新田 惇一:厚生労働省健康局総務課 併 原子爆弾被爆者援護対策室課長補佐
Kevin Dressman:米国エネルギー省 環境保健安全保障局 保健安全部 部長
Isaf Al-Nabulsi :米国エネルギー省 科学・イノベーション担当次官局 科学・エネルギープログラム主事
Elizabeth Eide:米国学士院・工学院・医学院 地球生命研究部門 常任理事
Charles Ferguson:米国学士院 学術会議 地球生命研究部門 原子力・放射線研究委員会 常任幹事
Rania Kosti:米国学士院・工学院・医学院 原子力・放射線研究委員会 上級プログラム担当官

放影研評議員
早 野 龍 五:東京大学 名誉教授 (評議員会議長)
Angela L. Bies:米国メリーランド大学公共政策学部世界的慈善および非営利事業リーダーシップ寄付講座 准教授(評議員会副議長)
Joe W. Gray:米国オレゴン健康科学大学医学部生物医学工学科Gordon Moore寄付講座長 兼 教授
神 谷 研 二:広島大学副学長 兼 特任教授
Jonathan M. Samet:米国コロラド大学 公衆衛生学部 学部長
Keith R. Yamamoto:米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校教授、科学政策・戦略担当副総長、精密医療担当部長
米倉 義晴:大阪大学放射線科学基盤機構 放射線科学部門 特任教授

放影研
丹羽 太貫:理事長(代表理事)
Robert Ullrich:副理事長兼研究担当理事
兒玉 和紀:業務執行理事
田邉 修:主席研究員兼バイオサンプル研究センター長
金岡 里充:事務局長

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