放影研報告書(RR) 22-93

間期における広範なDNA幾何学の指標としての放射線誘発染色体異常比率

Sachs RK,阿波章夫,児玉喜明,中野美満子,大瀧一夫,Lucas JN
Radiat Res 133:345-50, 1993

要約

電離放射線によって誘発される染色体異常は、対合的な相互作用によるDNA二重鎖切断(DSB)から生じると考えられる。安定型染色体異常の例としては、染色体間交換型の転座および染色体内交換型の腕間逆位がある。個々の染色体で生じるこれらの異常数を比較することにより、誘発されたDSBや交換形成の無作為性または大規模な染色体幾何学に基づいて結果を推論することができる。本研究では原爆被爆者38人から得たリンパ球の転座と腕間逆位の頻度をGバンド法により分析した。その結果、636の転座と102の腕間逆位が識別された。腕間逆位に対する転座の比率(636/102)はランダムモデルによる期待値の約1/14であったが、これまでの研究結果、およびin vitro照射により誘発された環染色体に対する二動原体染色体の比率とほぼ一致した。この染色体内交換の過剰は、おそらく照射中と照射直後の細胞核内における局在する染色体の空間的な近接効果によるものと推測される。それぞれ異なる染色体における腕間逆位の頻度分布から、DNA量とは関係なく、この近接効果がすべての染色体についてほぼ同じであることが分かる。つまり、異なる2本の染色体にそれぞれ生じる腕間逆位の比率は、染色体の長さと動原体の位置を考慮し、その他はランダムと仮定したときのモデルから得られる比率にほぼ等しい。例外的には、腕間逆位の過剰が7番染色体と12番染色体で認められる。各染色体が関与する転座の比率は、有意な過剰を示す1番染色体を除いて、ランダムモデルを想定したときの期待値にほぼ一致する。

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