放影研報告書(RR) 9-95

原爆被爆者の末梢血Tリンパ球の生体内で生じたhprt遺伝子座における突然変異スペクトル。Ⅰ.cDNAにおける塩基配列の変化

島原秀登,加藤 武,平井裕子,秋山實利
Carcinogenesis 16(3):583-91,1995

要約

最近、我々は原爆被爆者において、末梢血Tリンパ球のhprt遺伝子に突然変異を生じた6-チオグアニン耐性(TGr)細胞頻度が、被曝線量の増加に伴い、わずかながら有意に増加していることを認めた。しかし、サザンブロット法を用いて、TGr突然変異Tリンパ球DNAの異常を調べたところ、コントロール群と被爆群で有意な差は認められなかった。今回、i)多重PCR法と ii)RT-PCR法によるcDNAの作成および塩基配列の決定により、原爆被爆者のTGr突然変異Tリンパ球コロニーのhprt遺伝子座における突然変異事象について解析を行った。18人のコントロール群(<0.005Gy)から得た個々のTGr突然変異Tリンパ球41コロニーと、被曝線量1.5Gy以上(平均線量2.45±0.85Gy)の被爆群24人から得た50コロニーについて調べた。ゲノムDNAのhprtのエクソンを含む領域の欠失やシフトとして多重PCR法で検出される大きな構造異常が、両群とも10-15%認められた。このことは、両群間に有意な違いがないことを示している。両群から回収したHPRT cDNAにおける塩基配列には色々な形の変異が見られた。塩基置換(~45%)、欠失や挿入(~25%)、エクソンのスキッピング(~20%)が両群とも同じぐらいの割合で認められた。これらのことはゲノムDNAにおける大きな構造変化もhprt cDNAでの塩基配列の変化も両群間に有意な差のないことを示している。以上の結果は、原爆被爆により誘発されたHPRT突然変異Tリンパ球の多くが、被爆後数十年を経る間に消失したと考えられるというこれまでの研究結果を再確認するものである。また、いくつかのユニークな塩基配列の突然変異の特徴についても報告する。

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