放影研報告書(RR) 13-96
SCID-huマウスにおけるヒト毛包の放射線感受性
京泉誠之,鈴木隆子,寺岡正悟,瀬山敏雄
Radiat Res 149:11-18, 1998
要約
我々はヒト頭部皮膚組織を免疫不全C.B-17scid/scid マウスに移植することにより、ヒト毛包の増殖と脱毛を研究するための実験モデルを作成した。皮膚移植片は少なくとも1年にわたって継続的な毛の伸長を示し、また組織学的に正常なヒト毛包および他の皮膚付属組織の構造を維持した。我々はこの in vivoモデルを用いてヒト毛包機能に対する放射線の影響を評価した。局所的なX線照射(1 Gyから6 Gy)は照射後3週目から脱毛を引き起こし、線量に依存して脱毛が拡大した。脱毛しつつある毛はその幅が根元に向かって徐々に減少していた。照射後4週目に残存した毛の最も細い部分の最小幅は毛幅が 20μm以下にまで減少したときに毛が折れて脱毛が生じることを示唆した。最大線量の放射線照射の後、正常な毛球構造は完全に消失し、退行した毛乳頭細胞を伴う細長い上皮組織が残存した。生き残った上皮は毛包の柵状基底細胞層を持つ外根鞘上皮に形態的に類似していた。3週目には、個々の毛包内で生き残った上皮基底層内細胞の中に、増殖細胞核抗原を発現するものがあった。最も高い線量を照射した移植片でさえ、照射後9週までに毛伸長活性を持った完全な毛包構造が再生したが、それらの毛の約30%は再び伸長することはなかった。これらの知見は外根鞘に類似した上皮組織中に存在すると想定される毛包幹細胞が完全な毛包を再生できることを示唆している。この動物モデルは、ヒト皮膚に対する放射線被曝の影響の評価や、ヒト毛包幹細胞を同定し、その性質を調べるのに有用である。