放影研報告書(RR) 1-97

日本における原発性乳癌のリスク因子:原爆被爆者の8年間追跡調査

Goodman MT, Cologne JB, 森脇宏子, Vaeth M, 馬淵清彦
Prevent Med 26:144-53, 1997

要約

背景

原爆放射線被曝の健康影響に関する寿命調査(LSS)の所見では、放射線被曝と乳癌罹患率の間に強い線量反応関係の証拠が認められている。

目的

乳癌に対する放射線以外のリスク因子を確認し、これらの因子が乳癌発生への放射線の影響から独立しているかどうかを究明するためにLSS集団のデータを解析した。

方法

乳癌に対する放射線以外のリスク因子を調べるために、1979年から1981年まで郵便調査を行った広島・長崎の住民22,200人における乳癌の罹患率を確認した。その後の追跡調査期間中(平均8.31年)に、両市の集団を基盤とした腫瘍登録を通じて原発性乳癌161症例が確認された。

結果

乳癌リスクは、初潮年齢とは負の相関関係、閉経年齢および月経年数とは弱い正の相関関係を示した。この集団では乳癌と満期妊娠には有意な負の関連が認められたが、二人目以降の妊娠回数は乳癌の率には関係していなかった。最初の満期出産年齢が30歳未満の女性は、30歳以上の女性に比べて乳癌リスクが低かったが、傾向は観察されなかった。リスクは体重および肥満度(kg/m2)の増加に伴う正の増加傾向を示したが、有意ではなかった。エストロゲン使用歴のある女性の乳癌リスクは1.64(95%信頼区間:1.02-2.64)、糖尿病に罹患している女性のリスクは2.06(95%信頼区間:1.27-3.34)であった。放射線量と本解析で確認した放射線以外の様々な因子(初潮年齢、満期出産、女性ホルモン剤使用)の共同作用に関する相加的モデルと相乗的モデルの間には差異を見つけることはできなかった。

結論

日本人原爆被爆者における放射線以外の乳癌リスク因子は他の女性集団におけるリスク因子と一致していたが、共通のリスク因子の率は低かった。本集団では、出産関連因子とホルモン剤使用は放射線被曝からは独立的に乳癌リスクに影響を与えていると思われる。

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