放影研報告書(RR) 8-97

遡及的研究のために数十年間保存された組織ブロックから抽出したRNA

水野照美, 長村浩子, Iwamoto KS, 伊藤 敬, 福原敏行, 徳永正義, 徳岡昭治, 馬淵清彦, 瀬山敏雄
Diagn Mol Pathol 7(4):202-8, 1998

要約

数十年前のフォルマリン固定パラフィン包埋組織ブロックから抽出したDNAやRNAを用いた分子レベルの研究の有用性が報告されている。保存組織から抽出したDNAやRNAの品質と有用性は,固定方法や,固定時間,解剖までの所用時間などの様々な要因によって変わってくる。DNAとは違って,古い(10年以上を経た)保存組織から得られたRNAの有用性に着目して定量的にアプローチする包括的な研究は行われていない。本研究では,原爆被爆者について1952年から1989年までの約40年間に行われた解剖で得られた 738例の肝臓癌,および 63例の甲状腺癌組織ブロックから抽出したRNAの信頼性についての研究を行った。RNAの信頼性は逆転写ポリメラーゼ鎖反応(RT‐PCR)によってイントロンを介在させる二つのエクソン間の c‐BCR mRNAの増幅によって評価した。RNAの信頼性は,そのサンプルの年代と解剖までの所用時間に影響されたが,フォルマリン固定時間には影響を受けなかった。60%以上のサンプルが増幅可能であった。これらのRNAを用いて,肝癌の中のHCVゲノムおよび甲状腺癌からの H4‐RET遺伝子とを検出することができた。この研究は,長期間保存されている通常の方法で作製したパラフィンブロックから得られたRNAを用いても分子レベルでの研究が可能であることを示し,かつこのような研究を想定する時に有用性を評価する基となる統計的かつ重要な要因を提供している。

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