放影研報告書(RR) 15-97

原爆被爆者におけるhuman T‐lymphotropic virus type‐I感染、抗体価および死因別死亡率

有澤孝吉, 早田みどり, 赤星正純, 松尾辰樹, 中島栄二, 朝長万左男, 齋藤 寛
Jpn J Cancer Res 89:797-805, 1998

要約

Human T‐lymphotropic virus type‐I(HTLV‐I)感染が健康に与える長期的影響に関する縦断的調査はほとんどない。著者らはHTLV‐I感染と死亡率との関連についてのコホート調査を行った。対象者は、長崎の原爆被爆者集団3,090人であり、追跡期間は1985-1987年から1995年であった。HTLV‐I抗体陽性率は、男性で99/1,196(8.3%)、女性で171/1,894(9.0%)であった。8.9年(中央値)の観察期間の間に448人の死亡が発生した。成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)による死亡はなかったが、発症例が1例あり、HTLV‐IキャリアにおけるATLの発症率は0.46症例/1,000人・年(95%信頼区間[CI]0.01-2.6)と計算された。性、年齢および他の要因の影響を補正した場合、HTLV‐Iキャリアの死亡率は、全死因(rate ratio[RR]=1.41)、全がん(RR=1.64)、肝臓がん(RR=3.04)、心疾患(RR=2.22)で有意に上昇していた。HTLV‐I抗体陽性と新生物以外の疾患(RR=1.40)および慢性肝疾患(RR=5.03)による死亡率との関連はほぼ有意であった。本調査では輸血およびC型・B型肝炎ウイルス(HCV/HBV)の感染による交絡の可能性は除外できなかったが、肝臓がんおよび慢性肝疾患を除いても、HTLV‐Iキャリア(RR=1.32, 95% CI 0.99-1.78)、特に高抗体価のキャリア(RR=1.56, 95% CI 0.99-2.46, P for trend=0.04)の死亡率は上昇していた。これらの結果は、HTLV‐I感染がATL以外の死亡率に影響を与えることを示唆する。肝臓がんや慢性肝疾患による死亡の上昇を解明するには、HCV/HBV感染による交絡およびHCV/HBVとHTLV‐Iの相互作用に関するさらなる調査が必要であろう。

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