放影研報告書(RR) 8-99

原爆被爆者の寿命

Cologne JB, Preston DL
Lancet 356:303-7, 2000

要約

背景

低線量の放射線被曝が、生物学的に、また健康面でどのような影響を及ぼすかについては、相反する主張がなされてきた。これまでの調査では、特定の低線量に被曝した原爆被爆者が比較対照者と比べて長寿であることが示唆されている。その他の放射線被曝集団に関する初期の調査では、がんに起因する死亡による寿命の短縮が示されているが、これらの調査では放射線量測定が行われておらず、また相互に比較できない対照群を用いているので、偏りが生じる可能性がある。そこで我々は、広島・長崎の原爆被爆者集団における放射線の寿命に対する影響を再検討した。

方法

120,321人の被爆者について前向きコホート調査を実施した。本調査は、45年間の死亡率追跡調査に基づきほとんどの対象者について放射線量が推定されている。内部比較(コホートを基盤としたバックグラウンド死亡率の推定)を用いて相対死亡率および生存分布を計算した。

結果

寿命の中央値は放射線量が 1Gy増加するごとに約1.3年ずつ減少したが、高線量ではこれよりも急速に減少した。寿命短縮中央値は、推定線量が 1Gy未満の対象者においては約2カ月であったが、推定線量が 1Gy以上の少数の対象者においては2.6年であった。推定線量が0Gyを超えるすべての対象者における寿命短縮中央値は約4カ月であった。

結論

放射線ががん以外の原因による死亡率を有意に増加させることを示す最近の調査結果を考慮すれば、上記の結果は重要である。これらの結果は、特定の放射線量に被曝した被爆者が比較可能な非被爆者よりも長寿であるとする主張を支持するものではない。本調査集団は意図的に高線量被爆者を多く含むように設定されているので、全被爆者の平均寿命短縮期間は本調査集団について認められた4カ月よりも短いと考えられる。

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