放影研報告書(RR) 14-00

Human leukocyte antigen-A2アリル発現を失った突然変異リンパ球の負の淘汰におけるナチュラルキラー細胞の役割

楠 洋一郎, 京泉誠之, 久保美子, 林 奉権, MacPhee DG
Mutat Res 476:123-32, 2001

要約

幾つかの遺伝子座に何らかの突然変異を有した細胞の頻度の増加が被爆50年後においても原爆被爆者の血液細胞に認められている。しかしながら、興味深いことに、human leukocyte antigen (HLA)-A発現を失った突然変異血液細胞の頻度に関しては放射線の影響を明らかにすることはできなかった。これは、小集団の原爆被爆者のT細胞についての予備的調査や、今回調査集団を大きくして、B細胞、顆粒球、ならびにT細胞におけるHLA-A2欠失突然変異を調べた結果から確認されている。原爆放射線に被曝したHLA-A2ヘテロの個体においてHLA-A2陰性細胞の増加を検出できない理由を探るために、以下の仮説について検討することにした。すなわち、HLA-A変異細胞は、他の遺伝子座の変異細胞と同様に放射線被曝によって多数誘導されたが、個体の血流中のナチュラルキラー(NK)細胞に遭遇することにより強力な負の淘汰を受けて除去されてしまったという仮説である。HLA-A2発現を消失した突然変異リンパ球細胞株は、自己NK細胞との共培養により、親株のHLA-A2ヘテロ接合細胞株に比べて、より効果的に除去された。HLA-A2ヘテロ接合細胞株の試験管内培養中に出現するHLA-A2陰性変異体は、自己のNK細胞を添加して3日間培養することによって、添加されたNK細胞数に応じて減少した。また、HLA-A2ヘテロ末梢血リンパ球集団から自己のNK細胞を除去すると、培養中に発生するHLA-A2変異T細胞を多数検出することができた。以上の結果は、自己のNK細胞が生体内で自己のHLAクラスⅠ分子を発現する能力を失った突然変異細胞を除去するという仮説を強く支持しており、これによって164人のHLA-A2ヘテロの原爆被爆者試料にHLA-A2変異細胞頻度の増加が検出され得ない理由を説明することができる。 Mutation Research, Vol 476, Kusunoki Y, Kyoizumi S, Kubo Y, Hayashi T, MacPhee DG, Possible role of natural killer cells in negative selection of mutant lymphocytes that fail to express the human leukocyte antigen-A2 allele, pp 123-32, Copyright (2001), Elsevier Scienceの許可を得て掲載。 Mutation Researchホームページ

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