放影研報告書(RR) 6-01

身体機能障害の予報値としての痴呆―4年間にわたる追跡調査

Sauvaget CS, 山田美智子, 藤原佐枝子, 佐々木英夫, 三森康世
Gerontology 48(4):226-33, 2002

要約

背景

前向き調査により、認知障害が身体的能力障害の強力なかつ一貫したリスク因子であることが示された。しかし、認知障害は従来一つのスクリーニング法の結果にのみ基づいて決定されてきた。

目的

本調査の目的は、詳細な痴呆評価を行った後に、その後に生じる基本的日常生活動作(ADL)と手段的日常生活動作(IADL)での身体機能障害の発生や身体機能低下における認知機能の役割を調査することである。

方法

広島市内の自宅または施設に居住する61歳以上の 1,358人の日本人原爆被爆者を4年間追跡調査した。初回の調査(1993-1995)で、対象者に対して認知機能障害のスクリーニングを実施した。痴呆の疑いがある対象者については、一連の認知機能検査(長谷川痴呆スケール、Clinical Dementia Rating)および神経科医による神経学的検査を行った。痴呆の診断はDSM-III-R基準により行った。ADLおよびIADLについて、対象者に問診調査も行った。追跡期間中の死亡例に関しては記録を取り、追跡調査(1997-1999)でADLおよびIADL活動を評価した。

結果

年齢・性・脳卒中の既往について補正した後も、痴呆は機能障害の強力な予報値であった。すなわち、痴呆のADL障害の発生に対するオッズ比(OR)とIADL障害の発生に対するORは、それぞれ(OR=14.0、信頼区間[CI]=5.4-36.3)と(OR=10.1、CI=2.2-46.4)であり、またADLの低下に対するORとIADLの低下に対するORは、それぞれ(OR=9.8、CI=4.2-22.8)と(OR=3.9、CI=1.8-8.3)であった。

結論

痴呆は機能状態を決定する重要な因子である。IADLの低下よりもADLの低下の方がより有意であり、このことは、動機づけまたは知覚・感覚・運動能力など認知機能以外の要因がIADL活動では重要なことを示唆している。本調査では、老人の日常生活における重要な幾つかの機能的側面を検査することにより、身体機能に影響を与えるリスク因子についての以前の調査結果が裏付けられ、知見を深めることができた。

戻る