放影研報告書(RR) 2-02
原爆被爆者における炎症応答マーカーの放射線量依存的上昇
林 奉権, 楠 洋一郎, 箱田雅之, 森下ゆかり, 久保美子, 牧 真由美, 笠置文善, 児玉和紀, MacPhee DG, 京泉誠之
Int J Radiat Biol 79(2):129-36, 2003 (c) 2003 Taylor & Francis Ltd
要約
背景
原爆被爆者では様々な部位での悪性腫瘍の頻度が上昇していることが広く認められているが、最近の研究では心臓血管疾患を含むがん以外の疾患の頻度も放射線量に伴って上昇していることが示されている。低レベルの炎症応答が心臓血管疾患の有意な危険因子であると広く考えられていることから、我々は原爆被爆者について、炎症マーカーであるC反応性蛋白質(CRP)とインターロイキン6(IL-6)のレベルに対する放射線の長期的影響について詳しく調べた。
方法
原爆被爆者の長期疫学調査集団から選んだ 453人から血液試料を得た。血漿中のCRPとIL-6は抗体を用いた標準的方法により測定した。CRPまたはIL-6レベルと放射線量との関係は多重回帰分析により調べた。血液リンパ球の免疫学的表現型はCD3、CD4およびCD8に対するマウスモノクローナル抗体を用いてフローサイトメーターにより調べた。
結果
CRP値は推定放射線量1Gy当たり 約31%有意に上昇していた (p=0.0001)。CRP値は年齢、性、肥満度(body mass index)および心筋梗塞の既往歴とも相関していた。これらの要因を補正しても、CRP値は放射線量の増加に伴って有意に上昇していた(1Gy当たり 約28%上昇、p=0.0002)。IL-6値も 1Gy当たり9.3%(p=0.0003)上昇しており、多重補正しても 1Gy当たり 9.8%上昇していた(p=0.0007)。CRP値と IL-6値の上昇は、末梢血リンパ球集団中のCD4+ヘルパーT細胞の割合の減少と比例していた。
結論
我々の調査結果は、原爆放射線への被曝が被爆者の炎症活性を有意に亢進させているという明らかな兆候が今なお血液中に認められることを示しており、原爆被爆者に心臓血管疾患およびその他のがん以外の疾患のリスクが上昇していることの説明の一助になると考える。