放影研報告書(RR) 1-04

ヒト臍帯血中の幹細胞/前駆細胞の放射線誘発アポトーシスには活性酸素と細胞内酸性化の変化が関係している

林 奉権, 林 幾江, 篠原智子, 森下ゆかり, 長村浩子, 楠 洋一郎, 京泉誠之, 瀬山敏雄, 中地 敬
Mutat Res 556(1-2):83-91, 2004

要約

ヒト造血幹細胞集団の放射線感受性とそれに関連して生じる細胞内の事象(特に細胞内エネルギー産生系の変化)を調べるため、5GyのX線照射前後でのヒト臍帯血のCD34+/CD38、CD34+/CD38+およびCD34/CD38+細胞におけるアポトーシス細胞頻度、スーパーオキサイドアニオン(O2・-)の産生、および細胞質pHの変化について解析を行った。この研究ではヒト臍帯血単核細胞を用いた。放射線照射後、蛍光標識(FITC、PE、またはCY)した抗CD34抗体と抗CD38抗体を用いてサブグループの細胞を染色した後、アポトーシスの検出は7-amino-actinomycin D(7-AAD)を、細胞内O2・-の測定はhydroethidine(HE)を用いて更に染色し、FACScanにより解析を行った。細胞内pHは放射線照射後、carboxy-SNAFR-1を用いて染色し、コンフォカルレーザー顕微鏡による画像解析を行った。7-AAD染色で検出されるアポトーシス細胞の頻度は放射線照射したCD34+/CD38細胞集団で最も高く、その細胞についてはHEの酸化によって検出されるO2・-レベルも一番高く上昇していた。carboxy-SNAFR-1-AMを用いてimage cytometerにより測定した細胞内pHは、放射線照射した同じCD34+/CD38細胞集団で最も低くなっており、放射線照射4時間後には、この細胞内pHの減少に伴ってO2・-レベルが有意に上昇した。これらの結果は、CD34+/CD38幹細胞集団がより分化した CD34+/CD38+やCD34/CD38+細胞に比べて放射線誘発アポトーシスおよび細胞内O2・-産生に対して感受性が高く、その細胞内酸性化はアポトーシスの過程で先行して起きていることを示唆している。Mutation Research, Vol 556, Hayashi T, Hayashi I, Shinohara T, Morishita Y, Nagamura H, Kusunoki Y, Kyoizumi S, Seyama T, Nakachi K, Radiation-induced apoptosis of stem/progenitor cells in human umbilical cord blood is associated with alterations in reactive oxygen and intracellular pH, pp 83-91, Copyright (2004), Elsevier Scienceの許可を得て掲載。 Mutation Researchホームページ

戻る