放影研報告書(RR) 14-04

仮説:放射線被曝による過剰白血病リスクは主としてクローン拡大した前白血病細胞を持つ少数の人に起因する

中村 典
Radiat Res 163(3):258-65, 2005

要約

ヒトの白血病には、しばしば特定の転座に由来する遺伝子融合が生じている。放射線は白血病と転座の両方を誘発することで知られているので、放射線は特異的な転座を誘発することによって白血病のリスクを高めているのではないかと漠然と考えられてきた。しかし最近の研究から、この考えでは説明できないことが分かってきた。急性リンパ性白血病(ALL、小児における悪性疾患の中で最も重要なものの一つ)について考えるならば、最近の研究からこの病気に伴う特異的な転座は、実際に同じ転座によって生じるALL患者の頻度よりも約100倍も高い頻度で一般の人に自然に生じていることが明らかになってきた。更に、ALLに関連した転座を持つ細胞は、ALLを発症しない胎児においてしばしばクローン的に拡大しているようである。こうした自然に生じている状況は、実は放射線で作り出すのは極めて困難である。その理由は、放射線により誘発されるDNA傷害は基本的にゲノム上にランダムに分布するからである。従って、1回の放射線被曝により同一のALL関連転座を持った細胞が多数誘発され、その結果としてALLリスクが高くなった可能性は極めて少ない。新しい考えをここで紹介する。それは、集団が放射線に被曝して生じるALLリスクの大半は、誰にでも均等に生じるのではなく、被曝時に既にALL特異的転座細胞(前白血病細胞)が増殖していた少数の人に限って生じるという考えである。この前白血病細胞仮説は、放射線関連ALLについてこれまでに知られている様々な特徴を説明することができる。この仮説は同時に、こうした前白血病細胞をほとんど持たない大多数の人においては、放射線被曝による白血病発症リスクは低いことを意味している。この仮説は慢性骨髄性白血病と若年被曝の急性骨髄性白血病にも当てはまる。

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