放影研報告書(RR) 6-06

胎児期あるいは出生後早期に照射されたマウスではリンパ球や骨髄細胞に染色体異常が残存しない

中野美満子, 児玉喜明, 大瀧一夫, 中島栄二, 丹羽太貫, 豊島めぐみ, 中村 典
Radiat Res 167:693-702, 2007

要約

種々の週齢のマウスに1 Gyまたは2 GyのX線を照射し、それらが20週齢に達したところで末梢血Tリンパ球、脾臓細胞、骨髄細胞における転座頻度を、1番および3番染色体を着色するFISH法により決定した。胎児期あるいは新生仔期で照射した場合には、観察された転座の平均頻度は非常に低かった(≤0.8%)。しかしこの転座頻度は、マウスの照射時週齢の増加に伴って漸次増加し、6週齢以降の照射ではプラトーに達した(約5%)。p53−/−あるいはp53+/−胎児のどちらに照射した場合でも、転座頻度は母マウス(p53−/−、7.4%)と比べて低かった(p53−/−で1.8%、p53+/−1.4%)ので、染色体異常を持つ細胞の排除にp53(Trp53)依存性アポトーシスが大きく関与する可能性は否定された。これに対して、新生仔の照射直後の観察ではいろいろな型の異常が脾臓および肝細胞に多く観察された。これは、成体マウスに照射した場合の骨髄細胞における観察結果と酷似していた。以上の結果から、胎児細胞は一般に染色体異常生成に関して放射線感受性が高いが、これらの異常細胞は存続しないと解釈できる。その理由は、胎児の幹細胞は染色体異常を生じにくく、それらから生じた子孫細胞が動物の出生後の成長過程で傷害を持った細胞集団を駆逐するためではないかと思われる。

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