放影研報告書(RR) 11-08

原爆被爆者の甲状腺乳頭微小癌:腫瘍の特徴と放射線リスク

林 雄三, Lagarde F, 津田暢夫, 船本幸代, Preston DL, 小山幸次郎, 馬淵清彦, Ron E, 児玉和紀, 徳岡昭治
Cancer 116(7):1646-55, 2010

要約

背景

放射線曝露は臨床的甲状腺がんの一病因として確立されている。しかし、比較的一般的な前臨床的甲状腺悪性腫瘍である甲状腺の乳頭微小癌への放射線の影響についてはほとんど知られていない。これらの小型の甲状腺がんの発生率は増加しているので、これらの腫瘍について、またこれら腫瘍と放射線の関係について理解を深めることが重要である。

方法

原爆被爆者の寿命調査集団のうち、剖検および外科病理の保管試料のある7,659人について乳頭微小癌を検索した。これらの標本の病理学的検討を行い、腫瘍の組織学的特徴および乳頭微小癌と甲状腺の放射線量との関連を評価した。

結果

1958年から1995年の期間に313人の調査対象者から458例の乳頭微小癌が検出された。大部分の癌腫は甲状腺乳頭癌の病理所見を呈した。全般を通じて、乳頭微小癌の81%は硬化型亜型であり、91%は非被包性、また砂粒小体は乳頭微小癌の13%に見られ、石灰化は23%に見られた。95%以上は乳頭型あるいは乳頭・濾胞型構造を示し、ほとんどは核重畳、淡明核、核溝を示した。腫瘍が大きくなるにつれ、これら幾つかの特徴が増大したが、放射線量との関係は見られなかった。有意な放射線の線量反応関係が乳頭微小癌の有病率について見られ(1 Gy当たりの推定過剰オッズ比 = 0.57、95%信頼区間 0.01-1.55)、過剰リスクは主として女性に認められた。

結論

低線量ないしは中等度線量の電離放射線への曝露は、成人期の曝露であっても、甲状腺の乳頭微小癌のリスクを増大させているようである。 要約は出版社(Wiley-Blackwell Publishing Ltd.)の許諾を得て翻訳した。

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