放影研報告書(RR) 12-08

原爆被爆者における認知症発症率―放射線影響研究所成人健康調査において

山田美智子, 笠置文善, 三森康世, 宮地隆史, 大下智彦, 佐々木英夫
J Neurol Sci 281(1-2):11-4, 2009

要約

放射線治療が神経心理機能障害の原因となることが報告されている。この研究では原爆被爆者とその対照から成る成人健康調査対象者2,286人について、原爆放射線被曝が認知症の発症に影響したか否かを調査した。1945年時に13歳以上で、放射線治療の合計線量と比較して相対的に低い線量(4 Gy以下)を被曝し、認知症調査のベースライン調査時に60歳以上で認知症のなかった人を調査対象とした。認知症の診断は2年ごとの健診の際に2段階法(スクリーニング検査と精査)に基づいて行った。認知症の診断にはDSM IVの診断基準、アルツハイマー病にはNINCDS-ADRDAの診断基準、血管性認知症にはNINDS-AIRENの診断基準を用いた。認知症発症率における放射線の影響を評価するため、ポアソン回帰解析を用いた。1,000人年当たりの発症率は被曝線量5 mGy未満群では16.3、5-499 mGy群では17.0、500 mGy以上群では15.2であった。いずれの被曝線量群においてもアルツハイマー病が認知症のタイプとして優位であった。全認知症とタイプ別認知症のいずれにおいても、考慮された危険因子の調整後に、認知症の発症率について放射線被曝の影響は認められなかった。認知症患者には過去に頭部への放射線治療の既往を持つ人はいなかった。今回の縦断的研究では13歳以上で被曝した被爆者において放射線被曝と認知症発症の関係は認められなかったが、被爆者では早期に死亡するリスクが高いことを考慮すべきである。 要約は出版社(Elsevier B.V.)の許可を得て翻訳した。

戻る