業績報告書(TR) 17-85

免疫学的検査に用いるヒトリンパ球の凍結保存法について:第2報

藤原佐枝子,秋山實利,山木戸道郎,瀬山敏雄,小武家暁子,箱田雅之,京泉誠之,Jones SL

編集者注: この報告書に基づく論文は次に発表された。J Immunol Methods 90:265-73, 1986

要 約
原爆被爆者は、年々減少しており、貴重な細胞を保存することは後世の調査にも役立ち、細胞の凍結保存の重要性は増大している。

著者らはヒトリンパ球の凍結保存を試み、凍結保存が mitogen 反応性、mixed lymphocyte culture に及ぼす影響を以前報告した。今回、更に凍結保存技術を確立し、凍結保存が、リンパ球 subpopulation、免疫グロブリン産生能、細胞障害活性に及ぼす影響を検討し、以下の結論を得た。

1)凍結保存の至適条件としては、凍結液、融解液の pH7.2、dimethyl sulfoxide濃度 10%、凍結時のウシ胎仔血清浮遊細胞濃度 5~15×106/ml、凍結速度-1~-2℃/min、融解温度 37℃であり、これらの条件下で凍結後、平均生存率 90%、回収率 80%を得た。

2)細胞表面マーカーのEレセプター、Fcレセプターは、凍結保存の影響を受けなかった。また、モノクローナル抗体を用いたリンパ球subpopulationの検出で、T細胞、helper-inducer T細胞、cytotoxic-suppressor T細胞、B細胞、単球、natural killer(NK)細胞の割合を保持して、凍結保存が可能であった。

3)B細胞の機能を示す免疫グロブリン産生能は凍結保存後もその機能は保持されていた。

4)抗体依存性細胞障害(ADCC)は、ヒツジ赤血球を標的細胞とするプラーク法では凍結保存による影響を受けなかったが、T-24を標的細胞とする 3H-proline を用いたADCC試験では、凍結保存後、平均 35%の機能低下を認めた。

5)NK細胞活性は、凍結融解直後平均 40%~60%の機能低下を示したが、18時間 preincubation によって、細胞活性の回復を認めた。凍結保存後の preincubation でリンパ球 subpopulation の割合、生存率に変化は認められなかったが、K-562 に対する target-binding cellの割合の増加を認め、preincubation が NK細胞活性の回復の一因となると考えられた。

6)凍結障害は、凍結期間よりも、凍結の際の障害に依存すると考えられ、これはmitogen反応性は12カ月、E、EACロゼット形成能は14カ月、NK細胞活性は14カ月まで保存可能であることから確認された。

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