業績報告書(TR) 18-85

細胞遺伝学的「変性」細胞:その頻度,起源および進化的意義

阿波章夫,Neel JV

編集者注: この報告書に基づく論文は次に発表された。Proc Natl Acad Sci USA 83:1021-5, 1986

要 約
広島在住の 9~37歳の日本人 9,818名から得た培養リンパ球 102,170個について染色体異常調査を行った結果、 24個の細胞に強度の染色体損傷を認めた。損傷は多数の二動原体染色体や三動原体染色体、並びに無数の染色体断片からなり、その多くは”微小断片”を保っていた。これら変異細胞の出現と、両親の原爆被爆状況、年齢、性及び検査時の季節などとの間には相関性が認められなかった。異常細胞の個体別の分布はランダムではなかった。このような変性細胞の存在は、南米原住民に関する調査によって初めて観察され、現在までに米国及び英国住民にも発見されていることから、世界的な現象であると思われる。その成因は依然として不明であり、リンパ球以外の体細胞や生殖細胞にも出現するか否かは明らかでない。もし、他の体細胞系や生殖細胞系にも出現可能であり、かつ、変性細胞の中の最も損傷度の低いものが、まれにでも有糸分裂や減数分裂を支障なく行うことが可能とすれば、これら変性細胞の発癌過程や進化に果たす役割について真剣に考慮すべきである。

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