業績報告書(TR) 7-87

ポリペプチドの電気泳動上の移動度に変化を生じる自然突然変異の頻度

Neel JV,佐藤千代子,郷力和明,藤田幹雄,高橋規郎,浅川順一,迫 龍二

編集者注: この報告書に基づく論文は次に発表された。Hum Genet 78:1-8, 1988

要 約
36種のポリペプチドにわたり、合計539,170遺伝子座テストの行われた日本人集団における調査の結果、ポリペプチドの電気泳動上の移動度に変化を生じさせる突然変異と考えられるもの3例が検出された。これは突然変異率が 0.6×10-5/遺伝子座/世代に相当する。我々の検査法において、戸籍上の両親が、生物学上の両親ではないという食い違いが検出されなかったために、見かけ上は電気泳動上の移動度に変化を生じる突然変異であるとみなされる確率はこの集団において、わずか 0.3×10-7/遺伝子座/世代であると計算されている。電気泳動法では、ヌクレオチドの突然変異によって生じたアミノ酸置換のうち、約半数しか検出されないので、ポリペプチド中にアミノ酸置換を引き起こす突然変異の頻度の補正値は、1.2×10-5/遺伝子座/世代である。同義突然変異及びストップコドンを生じる突然変異を考慮すると、ポリペプチドをコードするエクソン部分にヌクレオチド変異をもたらす総合突然変異率は、約1.8×10-5/遺伝子座/世代となる。本報で得られた結果を、電気泳動上の変異型を生じる突然変異に関して入手し得るすべてのほかのデータと一緒にすると、電気泳動法で検出される突然変異の頻度は 0.3×10-5/遺伝子座/世代と低下し、遺伝子座当たりの総合突然変異率は、約1.0×10-5、(エクソン中の)ヌクレオチド当たりの突然変異率は 1×10-8となる。半数体ゲノム中には、約3×109個のヌクレオチドがあり、1個のポリペプチドをコードするエクソン中のヌクレオチドは 平均103個であるとし、更に、エクソンについて得られたヌクレオチド当たりの突然変異率を(DNAすべてに)一般化し得るものならば、この低い方の推定値を用いてさえも、配偶子当たり、世代当たり 約30個のヌクレオチド突然変異があることを意味する。この”点”突然変異の頻度に対する推定値には、小さな重複、再配列、不等交差によって生じる欠失、転写エラーなどは含まれていない。

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