業績報告書(TR) 3-88

広島・長崎の電離放射線胎内被曝の知能検査値に及ぼす影響。T65DR及びDS86線量推定方式による比較

Schull WJ,大竹正徳,吉丸博志

編集者注: この報告書に基づく論文は次に発表された。Congenital Anomalies 29:309-20,1989

要 約
広島・長崎原爆胎内被爆者の 10~11歳時における知能検査値(古賀式)を最近採用した線量推定方式、すなわち、1986年線量推定方式(DS86)に基づいた子宮吸収線量推定値を用いて解析した。結果は次のとおりである。1)受胎後8週齢未満又は 26週齢以上の胎内被爆者には知能に及ぼす放射線影響の証拠は認められなかった。2)受胎後8~15週齢の胎内被爆者では被曝線量区分間に知能検査値の分散値の異質性は認められなかったが、平均値に有意な異質性を認めた。しかし、受胎後16~25週齢の胎内被爆者にはそれほど有意な異質性はなかった。3)知能検査値の累積分布は、被曝線量の増加と共に知能検査値が累進的に下降することを示唆する。また、4)臨床的に認められる重度精神遅滞の最も感受性の高い群、すなわち、受胎後8~15週齢の胎内被爆者では、DS86子宮吸収推定線量に基づく知能検査値の回帰解析は、T65DR胎児吸収推定線量による回帰傾向と比べてより線形的であり、線形モデルでの知能検査値の下降推定値は 1Gyで 21~29点である。線量 0.01Gy以下の対照者を除外するとその影響は 1Gyで 24~33点と幾分大きくなる。

これらの所見を広島・長崎の原爆胎内被爆者の精神遅滞頻度に関する過去の解析結果と比べて考察した。両所見は同一の基本的な生物学的過程又は幾つかの過程の結果であることを示唆する。

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