業績報告書(TR) 7-88

T65D及びDS86両線量方式に基づく染色体異常頻度の線量反応関係の比較

Preston DL,McConney ME,阿波章夫,大瀧一夫,伊藤正博,本田武夫

編集者注: この報告書に基づく論文は次に発表された。New Dosimetry at Hiroshima and Nagasaki and Its Implications for Risk Estimates. Bethesda,Md,USA,NCRP,1988. pp 185-202 (Proceedings of the 23rd Annual Meeting of the National Council on Radiation Protection and Measurements,Washington,D.C., 8-9 April 1987)

要 約
成人健康調査集団における原爆被爆者と対照者の培養リンパ球から得た細胞遺伝学データを解析し、染色体異常における線量反応関係のT65DとDS86との差異、及び広島と長崎両市間の差異を調べた。このデータは、DS86推定カーマ線量が4Gy以下の者(広島 678名、長崎 381名)、及び原爆時に両市にいなかった者(広島 110名、長崎 76名)の合計 1,245名(広島 788名、長崎 457名)の対象者から、1968~80年に採取した血液標本から得た検査に基づくものである。各対象者について、少なくとも1つの染色体構造異常を有する細胞の数と線量測定との関係を二項回帰モデルを用いて検討した。推定線量の関数としての観察された異常細胞の割合の変動は、二項モデルを用いて予想したものより大きいため、すべてのモデルについて超二項分布の変動性を補正した。

線形線量モデルの場合、最低1個以上の染色体異常を有する細胞の割合の平均の線量に伴う増加度は、広島よりも長崎の方が低い。1Gy当たりの異常率の両市間の差はT65DよりもDS86で小さいが、この差はいずれの線量方式においても、カーマ及び骨髄線量では統計的に有意である。DS86推定カーマでの1Gy当たりの異常細胞率は、対応するT65D勾配よりも 約60%大きい。しかし、骨髄線量においては、両方式間に勾配の差はほとんどない。線量反応関数における非線形性を調べるための解析は、両方式において、カーマ及び骨髄線量共に線形から有意に離反(p<.001)していることを示している。新旧両線量方式における異常の線量反応関数の比較は、中性子の生物学的効果比(RBE)に大きく左右される。しかし、これらのデータからガンマ線及び中性子の反応関数を別々に推定することは困難であり、したがって、RBEの推定も困難である。そこで、種々のLモデルとLQ-Lモデルを用いて、ある範囲でのRBEとの関係を比較した結果を示す。実証的な結果を示すと、細胞遺伝学の文献に報告されているモデルと同様のLQ-Lモデルで、ゼロ線量における限定的RBEを 20と仮定すると、DS86勾配(1Sv当たり染色体異常細胞率)は、対応するT65D値より 120%大きい。

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