業績報告書(TR) 14-88

原爆被爆者の生体内HPRT突然変異T細胞の遺伝子解析

箱田雅之,平井裕子,京泉誠之,秋山實利

編集者注: この報告書に基づく論文は次に発表された。Environ Mutagen 13:25-33,1989

要 約
被爆していない 3名の対照者及び 2名の原爆被爆者から分離した生体内 hypoxanthine guanine phosphoribosyltransferase(HPRT)欠損突然変異T細胞を Southern blot法を用いて解析し、突然変異の分子レベルでのスペクトルを調べた。対照者3名の突然変異細胞頻度は、それぞれ 1.8、2.3、7.3 (10-6、被爆者2名(DS86推定カーマ線量 2.46Gy及び2.15Gy)の頻度はそれぞれ 9.3、14.4×10-6であった。対照者の 105個の突然変異T細胞コロニーのうち 14個(13%)にHPRT遺伝子の種々の構造変化が見られた。突然変異細胞頻度が 9.3×10-6の被爆者に認められたHPRT遺伝子構造変化の頻度は 26%(16/61)で、対照者と比べて有意に高かった。しかし、もう1名の被爆者に認められた構造変化頻度(14%,8/59)は対照者に比べ高くなかった。2~6個のコロニーからなる5組の突然変異体に同一のHPRT変化があった。このうち3組は同一のT細胞受容体(TcR)β及びγ鎖遺伝子の再構成があり、1個の突然変異体からのクローナルな増殖が起きたことを示していた。これらの3組(計10コロニー)はすべて、遺伝子構造変化の頻度が対照者に比べて有意に高かった被爆者に認められた。このように1名の被爆者の解析結果は、被爆者と非被爆対照者で生体内突然変異の分子レベルでのスペクトルが異なることを示唆したが、もう1名の被爆者からはそのような結果は得られなかった。同一のHPRT変化を有する残り2組のコロニー(対照者及び2番目の被爆者の2組)は、異なったTcR再構成を有しており、突然変異がTcR遺伝子再構成の前の幹細胞で起こったことを示していた。

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