業績報告書(TR) 15-88

ヒト胃癌及び甲状腺癌におけるras遺伝子発現:抗ras p21モノクローナル抗体の作製と免疫組織化学的検討

濱谷清裕,吉田邦子,中村 典,江藤良三,珠玖 洋,秋山實利

編集者注: この報告書に基づく論文は次に発表された。Cancer Res 48:5503-9,1988 ; 広島医学 41(3):525-7,1988

要 約
v-Ki-ras遺伝子を組み込んだ大腸菌により産生されるp21を免疫原として、ras p21蛋白に対するマウスモノクローナル抗体を産生する 16個のハイブリドーマクローン(RASK-1~RASK-16)を得た。酵素免疫測定法(ELISA)及びイムノブロッティングアッセイにより、RASK-1はKi-ras p21に特異的であるが、RASK-2~16のクローンはKi-、N-及びHa-ras遺伝子のp21すべてと反応することが示された。ビオチン化モノクローナル抗体を用いた結合阻害試験をELISAにより解析した結果、16のクローンのモノクローナル抗体はp21の同一部位に結合するのではなく、幾つかの異なった部位に結合することが示された。

Ki-、N-及びHa-ras p21すべてと反応するRASK-3を用いて、ヒト胃及び甲状腺組織におけるras p21の発現をアビジン-ビオチン複合体法により免疫組織化学的に検討した。フォルマリン固定、パラフィン包埋した胃癌 101症例、非胃癌 53症例、甲状腺癌 74例及び非甲状腺癌 59症例の組織について解析した。胃及び甲状腺いずれも癌細胞においては、p21が優位に発現していた。種々の良性疾患においては、病変細胞及び一部の正常細胞もp21陽性であった。これらの結果から、p21を癌のマーカーとして使用するには注意を要するものと考えられる。

中分化~高分化型胃癌、腸上皮化生及び異型上皮巣において、p21の発現が見られた。胃上皮細胞のこのような病変においてもp21の発現が見られることから、p21の発現は胃上皮細胞がp21陽性である腸上皮細胞へ異分化的変化することと関連していると思われる。それ故、中分化~高分化型胃癌におけるp21の発現は、細胞が癌へと形質転換をする前に始まっており、p21の発現そのものは細胞の癌化と直接には関連していないように思われる。

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